人間側の土地と魔王側の土地の間にある広い海。そこはお互いが自分の土地を守るためにたくさんの船が周回していた。そして、戦闘も毎日のように行われている。


「船長!起きてくださいよ船長!」

「んぁ?」

船長と呼ばれた18歳ぐらいの若い青年は、甲板の支柱にハンモックを適当にくくり付け潮風を感じながら昼寝をしていた。


「何だ。敵襲か?」

「違います!港に付きますよ!」

「あー…そっか。積荷降ろす準備しろ!」


ハンモックから降り、船長と言われた青年ーーーーラインハルトは船中に響き渡る程大きな声で指示を出した。

ラインハルトは魔王側の、深い森の中で生活する希少種の一人だ。その証拠に狐の様な耳に黒い大きな翼…だが海での事故で片翼は無残に千切れてしまっている。
故に『飛べない海賊』それが彼の異名だ。





「ハルト船長!全ての荷物、降ろし終わりました!!」

「解った。お前ら!今日はもう終いだからな。いつも泊まってる宿で寝ろよ。食事は各自で!…っても酒場で宴会か」

「もちろんハルト船長の奢りっすよねー?」

「テメェら…。まぁ、久々に陸に上がったし、呑め騒げ!迷惑はかけんなよ!!」


ハルトの言葉に一斉に盛り上がる船員。 結局陸に上がるといつもこうなるとため息をしながらハルト自身も満更ではないような表情をした。



・・・・・・・・・


海賊と言っても、魔王側の海賊は魔王により公式に職として認められたモノだ。人間が海を越えてくる前に迎撃するため、逆に人間側に乗り込む時に足として使うため、輸送をするため、そのために海賊は必要不可欠な存在だ。


「…ったく、騒ぎすぎだっての」


酒場の隅で船員が騒いでいるのを眺めながらハルトは呟く。陸は海より騒がしい。18年生きてきた中で陸で過ごしたのは5歳頃までなハルトはどうにも慣れない。


辺境の地で生きているずば抜けた聴力と翼を持つハルトの種族の村に魔王の遣いがやってきたのが全ての始まりだった。
『飛べる種族の者が海賊としたらどうだろう?』そんな理由で誰か一人が村から出なくてはならなかった。しかし仲間意識が強い種族なので、なかなか立候補者が出ない。

その中で手を挙げたのが当時5歳のラインハルトであった。
理由は『外の世界が見てみたい』という子どもらしい単純なモノ。

それからはこの船で下っ端として働き、前の船長と船員に気に入られ、剣技と水魔法の実力もあるラインハルトは三年前、前船長が亡くなると共に15歳でという異例の船長となった。

心残りがあるとすれば家族のことだが、もう何を言っても遅い。真面目なラインハルトは海賊として海で生きることを決めている。


「そーいやー船長!明日から3日間って休みでしたっすよね?」

「ん?あぁそうだな」


船員の言葉で現実に引き戻され、ついでにここ1週間の予定を振り返る。彼の休日はいつも同じだった。


「あ、今回は誰が船に残るんすか?時間制ですか?」

「そう言えば、テメェは新人で初めての休みだったな」

「?はい」

「別に用事がねぇときは俺だ。船長が船を見てないとな」

「えっ、じゃあ船長はいつも…」


「うるせぇ。船に関しては俺がルールだ。わかったら帰ってくる時に土産でも持って来いよ」


くしゃっと新米船員の頭を撫でる。誰とでも分け隔てなく接するのも彼が信頼される理由の一つだった。


・・・・・・・・・・・



「船長、何であんまり陸に上がらねぇんだろう…」


翌日、休みになった船員は荷物を持って船を降りる。家族に会いに行く者、知り合いに会いに行く者など様々な理由だ。
その中で一番新米の船員がいつものハンモックで寝ているハルトを船の下から見上げて呟く。
それを見かねた別の船員が答えた。


「ハルト船長は帰る所も家族もないんだとよ。陸に上がっても虚しいだけだって前に言っていた」

「え?」

「親御さんは病でハルト船長が下っ端時代に里帰りした時には亡くなってたらしい。3つ下の妹さんは行方不明。安否すら解ってねぇって。たまに辺境出身の奴を船に乗せてた時は知っているか訊いているらしいぞ。…まぁ酒でほろ酔いの状態の船長に訊いたから本当がどうかは解らんがな」


先輩の船員の話を聴き、再びハンモックで寝転がっているハルトの姿を見る。先程は感じなかったが、どこか寂しそうにしてる様に見えた。




・・・・・・・・・・・


三日後、船員が誰一人欠けることなく再び船に集まるとすぐさま出航の準備をした。
今日は南へ趣きそこで人間の船が入って来ないように警備する任務だ。
船が向かう場所はよく人間が現れる海域で、よく戦闘になる。そのため海軍の命令で外部から腕の立つ者を船に同行させることもある。今回はその外部の者を乗せての出航だった。



「準備は済んだな」

「はい!」

「後は今日同行する二人組が来るだけか…何だっけ名前。…ペシコー=シュファンと、フェーエッタ…?気が抜けた名前だな」


事前に配られた資料をハルトは今一度読みながら言う。
一人はよく解らない男。大司祭。雷魔法が得意らしいし少ないが確かに戦績はある。更にもう一人は耳が尖っている女性で武闘家。こちらもそれなりの戦績を持っている様だ。


「お、来たな。話は船を出してからでいいか。出航!」


同行者二人組が船の上に立つと共にラインハルトは出航を命じる。自己紹介も無しに船を出した船長に同行者達は若干驚いていた。

だがラインハルトは動じない。この船の上では自分がルール。故に誰も逆らわせない。だからこそ無事に航海を終わらせると決めているからだ。




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ペシさんとフエちゃんは同じ診断から生まれた友人の子をお借りしましたー!



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