※診断メーカーで生まれたファンタジー系のキャラの話です。







この世界は人間側と魔王側に別れていて、今でも熾烈に領土争いをしている。人間側の王が魔王を倒せと人間側の、腕がある者に命令するぐらいだ。


そんな物騒な時代でも穏やかに暮らしているところはいくつかある。今回はとある村の話。そして、人間側と魔王側の間に立つヒトの話。



「あ、やっぱり此処に居ましたねロキさん!」


ロキと呼ばれた青年は沢山の書物があふれる薄暗い部屋で黙々と本を読んでいた。だが突然可愛らしい声がロキの集中を削ぐ。彼は面倒くさそうに顔を上げた。


「何でぇアンナ。もう少しで読み終わるところに…」

「そろそろ礼拝の時間なのでつたえようと」


狐の様な耳と、背中に生えている黒い小さな翼を心無し下げながらアンナと呼ばれた少女は申し訳なさそうに言うとロキは本を閉じた。


「どうせいつもと同じで誰も来ねぇだろ。今は農作業の時間だし」

「そ、そんなの解りませんよ!ほら、そこの祭司服着てくださいよ…」

「へいへい」


アンナに弱々しく言われるとこっちが悪いように聞こえてしまうと思いながら、ロキは立ち上がり、本の山の上に置いてあった白い祭司服をみすぼらしく薄いボロボロの服の上に着る。そして顔を隠すための黒いベールを被り、金色の瞳と表情を隠すと部屋から出た。


「もう少し誰か遊びに来てくれたら教会の祭司ってのにもハリが出るんだがなぁ。農作業の手伝いした方がよっぽど村のためだと思わねぇか?」

「さ、祭司も大事ですよ!じゃあ私は奥の方に引っ込んでますね…!村の人にいるのバレたら大変ですし…」

「おー」


赤毛を揺らして教会の奥の部屋に行くアンナの後ろ姿を見て、ロキは「魔王側も難儀だな」と誰に言うわけでもなく呟いた。

アンナは魔王側の召喚士だ。だが根っからの平和主義者で、戦うのが嫌だった彼女は人間側で暮らすことにした。その時見つけたのがこの村であり、この教会だ。そして、『村を襲わなければ誰でも助ける』が信条のロキがアンナをここで居候させているのだ。

いつかは村の住人を説得させて普通に暮らせるようにしたいが、思ってた以上に魔王側と人間側の関係は悪く、だからこそ普通の人間側の者は異様に魔王側の住人を恐れ、受け入れることが出来ない。それはこの平和な村も同じだ。


「することねぇや… 」


小さな声でも静かな教会内では響く。そんな自分のやる気のない声を聞いて、ロキはさらにため息をついた。

だが、暫くすると外が騒がしくなる。何か大きな足音がこちらに近づいていた。


「大変よロキー!!」


バン!と教会の扉を壊しながら入る女性。彼女は普通の狼の倍以上もある大きさの白狼に跨りやってきた。だが慣れたようにロキは落ち着いていて、黒いベールを手で軽く上げながら彼女とその狼を見る。


「ヴィノはさぁ…何回教会の扉壊せば気が済むんだ?狼で体当たりして何回扉壊した?」

「い、急いできたんだから仕方無いじゃない。それに私は獣使いよ!獣に跨り駆けるのが当たり前よ」

「だからって…「そんなことより!!敵よ!…はぁ?」

「ここに来るときにたまたま見かけたの。ほら、祭司の出番よ!」


急かすヴィノ。ロキは再びため息をついた。ベールの中で目を細め艶のある銀色の頭を掻く。


「ちょいとそいつらに会ってくるかな」

「村の皆に伝えとく?」

「ありがとう。じゃあそれ頼むわ。まぁすぐ帰ってこれるだろうけど」


・・・・・・・・・・


気だるそうにロキは教会を出ると、村から出て森の中へ入っていく。村を襲うなら大体この道を通ってくるのを予想して、ロキは待ち伏せしていた。
三年前に親を病で亡くし、それから教会の祭司を引き継ぎ、村のために相談に乗ったり手伝いをしたり、とにかくロキは自分が出来ることを何でもした。特に、今からすることは村でロキにしか出来ないことだ。


暫く待つと足音が数個、ロキの耳に入る。あえてロキからは何もしない。もしかしたらアンナと同じような境遇の集団かもしれない。話せる相手ならそれで解決するのが一番だ。近づいてきたのは五人組。二人が魔術士、三人が武器を持っている。種族が違うのか、獣耳や角、肌の色などバラつきがある。人間側ではないのは確かだ。



「少し良いか?そこの五人組。この先にある村に用か?」

「そういうお前は何だ。偉そうな服着やがって。ただの農民じゃねぇだろ?」

「祭司…正確にはドルイドだが、祭司でいいや。お前さん等が村で何か悪いことするつもりなら通せねぇんよ」


ロキの言葉に敵は声を上げて笑い出した。ベールの中で苛立つように舌打ちをするが、笑い声でかき消される。それがロキをさらに苛々させた。


「武器も持たず、そんな動きにくい服で何ができるってんだ?冗談も大概にしろよ」


敵のリーダーと思わしき人物がほかの四人に「やれ!」と命令した。魔術士二人が詠唱に入り、他は武器を構えロキに向かう。


「……警告はしたからな」



「死ね!!……あれ?」


斧を持つ敵の一人がロキを捉えた瞬間、つまり斧を振り下ろす時に素っ頓狂な声を漏らした。そして手元を確認する。何故なら自分が手にしていた斧が手から離れて何処かに消えてしまったからだ。


「おー、いい斧だな」

「!?」


敵がロキを見ると目を見開いた。何故なら、その斧がロキの手にあるからだ。


「めっちゃ驚いてんな。ただ魔術使っただけだべ。さぁどんどい来いや」

「…このっ」


詠唱が完了した魔術士が、雷系の魔術をロキに向けて発動する。幾多の電気が彼を襲う。…筈だった。


「お返しすんぞ」


その一言をロキが言うや否やで電気が彼の目の前で消える。魔術が相殺されたのか、それとも何処かへ消えたのか。魔術士が考えている刹那、頭上からバチッと電気が流れる音がした。


「ーーーーーーーー!!」


魔術士が危険を本能的に察知し、避けるとその瞬間、電流が流れた。


「あ、移動時間間違えた。イマイチ感覚がなぁ」

「何の魔術だ!?詠唱も素振りもなしに…」

「今も言ったろ、移動魔術だ。独学で我流だけどな。学校とかこの村に金なくて行けねぇよ」


ロキの村は山奥の田舎だ。学校に行くための金は無く、親は三年前に病で亡くなり彼一人で村を纏めていた。彼にしか出来ない事。それは魔王側の敵との対峙だった。


「二年ぐらい前からかな。ここにも魔王側の奴が来るようになったのは。教会には昔っから残ってる魔術本がたくさんあるんだよ。いつか村の役に立てるかなーって思ってガキの頃から読んで練習してた。まぁそれが結構上手くいってお前さん等とも戦える感じだな」


彼自身はそう言ってるが通常、魔術は詠唱や動作をするのが基本。詠唱破棄の魔術は修行を詰んだ高位の魔術士しか出来ないとされている。しかも、彼が使っているモノは移動魔術と言えば簡単そうだが、正式には空間転移魔術と言う詠唱が必要でかなり高度な魔術。

だが特殊な環境と、彼自身の才能が合わさりその垣根を難なく超えてしまっていたのだ。


「さっきは避けられたが次はそうはいかねぇよ。お前さん等を魔王側の土地に帰してやる。『何処か』は解らんけどな」


瞬間、敵が声を出す間もなく五人同時に何処かへと消え去る。ロキの移動魔術は人すら遠くにとばしてしまう程だった。



「移動魔術って、どうも派手さ欠けるんだよなぁ。見えないから敵にとっちゃ解りにくいけど。炎熱魔法は加減がもっとムズイし…」


ぶつぶつ独り言を呟きながら踵を返し、ロキは村へと戻る。入り口で心配していた村の住民らが迎えに来ていた。
馴染み深い顔ぶれに、ロキはようやく顔を隠していたベールを取り小さく笑う。




・・・・・・・・・・・


「お、おかえりなさいロキさん!お怪我は…?」

「一つもねぇさ。ヴィノはどうした?」

「村長さんからの依頼を受けて説明を聴きに…」

「んじゃあすぐ帰ってくるな。あー、めんどくさかった」


自分とアンナ以外いない教会の長椅子に勢い良く座り背中を預ける。他の祭司がいたら怒られる様な声と態度だ。それをアンナが覗き込む。


「また、魔術でとばしたのですか?」

「おう。殺す必要ないしな。祭司はあんまり殺生しないもんだべ?」

「神様が聞いてたら呆れてますね」

「かーもなぁー」


口に手を当てながら笑うアンナに続き、ロキも笑う。小さな笑い声でも、静かな教会内では充分に響いた。



「『魔術士は孤独』ってどっかの本に書いてあったな」

「どうしたのです?突然」

「魔術って全く同じもんがねぇんだろ?だからかなーって。ましてや俺なんか独学で我流だし、周りに魔術使う奴なんていないからなんとなくその一文の気持ちが解るんよ。でも、だからこそなんだな」

「え?」

「自分にしか出来ない事で村の皆守れるならその孤独も悪くない。…かもしれん。だからこそ皆がいるってことのありがたみも増すもんさ」

「わ、私だっていますよ!!そりゃあ、戦うの苦手ですけど召喚士だって特殊ですし…」


大声を出した途端、小声になり口篭るアンナを驚いた目で見るロキ。そして、「その時は頼りにしてる」と言っている様に頭彼女のを雑に撫でた。




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