それはある日の出来事でした。 雨がざぁざぁ降っていて、 彼はただただ泣いていて、 私を見ようともしません。 何故でしょうか、 何故でしょうか、 彼の涙は止まっているのに 雨粒が彼の涙を拭っては流し、拭っては流しているのです。 鳴呼、なんともったいないことなのでしょう。 彼の涙は世界中の宝石を一点に集め、明るいお日さまに反射させてきらきら輝せたとしても其れよりも美しく、綺麗なモノなのに 彼は動かず、ただただ雨に身を任せているだけなのです。 それはある日の出来事でした。 彼はまだ動きません。 涙は枯れているのに、 雨はもう降っていないのに、 彼はまだ動きません。 彼のまわりには水溜まりが出来ていました。 私にはその水溜まりが、普通の水溜まりとは違う様に見えて…私にとっては不思議な水溜まりなのです。 そんな時ふわりと花弁が散りました。 何の花かは解りません。 とてもとても良い香りがしました。 その花弁達は風でひらひらひらと舞い其々の終着点へと向かいます。 どうやら水溜まりが終着点な花弁が幾つかあるようです。 きっと不思議な水溜まりに綺麗な花弁が落ちたら、この水溜まりはもっと美しく見えるでしょう。 そんな事を考えていたらひらりと花弁が水溜まりに落ちました。 ひらりひらりと何枚も水溜まりに落ちました。 私は彼に綺麗ねと言いました。 彼は返事をしませんでした。 花弁がひらひらと舞います。 その花弁の数枚は、普通の水溜まりとは少し色が違う不思議な水溜まりを終着点としておりました。 |