05

熱が完全に引いてもなぎさはDIOの傍から離れようとしなかった。食事も風呂も何もかもをDIOの寝室で済まし、DIOが部屋から出ればその帰りを大人しく待つ。その期間がどれだけ長かろうともなぎさはDIOの帰りをひたすら待った。それはさながら犬のように。

「おかえりDIO」

そう言って微笑むなぎさからは寂しさなどは微塵も感じられない。ただ溢れんばかりの嬉しさがそこにはあった。

その日DIOはその鼻を擽る香ばしい血の香りで目を覚ました。これは…なぎさの血の香りか。彼女がこの館に来たその日、そしてそれからの日々の中でなぎさが漂わせていた血の香り。それが今日はいつになくDIOの鼻を刺激する。血でも流したか。なぎさの姿を探すように部屋を見渡すがその姿はDIOの赤い瞳には映らなかった。ただ分厚い扉がDIOを誘うように微かに開いていただけ。子供特有の好奇心から部屋の外に出たのだろう。その姿を追うように部屋を出れば扉の傍に控えていたテレンスが恭しく頭を下げた。

「なぎさはどうした」
「ヴァニラがDIO様を害する虫の駆除を、と言いだしまして」
「それで誘い出したのか」

こちらです。とDIOをなぎさの元へ促すテレンスを無視して未だ強く香るなぎさの血の匂いを頼りに薄暗い廊下を進んでいく。なぎさがいるであろう場所に近付くにつれてそれはより強くなり、ガオンと言う音がDIOの鼓膜を震わせた。
辿り着いた廊下はヴァニラのスタンド『クリーム』によって無残な姿へと変えられていた。こちらに背を向けて立つヴァニラ、正面には壁に開いた穴から光が差し込んでいる。その向こう側にへたり込むのはいつもとなんら変わらない様子のなぎさ。恐怖に顔を歪ませる事なく、いつもの様にボーっと宙を見つめるなぎさには床に散るガラス片で裂いたのであろう指の傷があるだけでそれ以外に外傷は見受けられない。その姿を見たDIOは驚きに目を見開いた。なぎさの身体にはクリームによって付けられた傷はない。これだけ廊下は荒らされているのに、だ。

「ヴァニラ」
「…DIO様!申し訳ありません、これは」
「よい、説明しろ。何故なぎさは死んでいない」
「それが」

語るより見せた方が早い。ヴァニラはスタンドを発動させなぎさを飲みこもうとしたがどういう訳かガオンと音を立てて亜空間へ消えたのはなぎさではなく館の壁だ。更に無残な姿へと変えられた館を嘆くテレンスを無視してDIOは自身のスタンド『ザ・ワールド』を出し、なぎさを殴りにかかったが壊れたのはなぎさの身体ではなく館の壁。スタンドの攻撃を受けないのか。DIOが開けた穴から差し込む日の光を浴びそっと静かに微笑むなぎさ。その体がふらりと揺れたかと思うと後ろに倒れ込んだ。それをザ・ワールドで支えたDIOは口角を持ち上げた。彼女は予想以上の存在だ、と。



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