06
DIOの腕の中ですやすやと眠るなぎさ。柔らかな頬がDIOの厚い胸板に押し付けられたので試しに鋭く尖らせた爪でそっとなぎさの頬を撫でてみる。スタンドによる攻撃はなぎさには効かなかった。ならば直接傷付けてみればどうだろうか。DIOの爪が薄い皮膚の上を滑っていくのを追うようにつっと赤い一筋の線が浮き上がった。指の傷同様なぎさを傷付ける事が出来るのはスタンド攻撃以外のようだ。 頬の傷から漂うは芳潤な血の香り。DIOはその香りに引き寄せられるように自らが付けた傷にそっと口付けた。流れる血を拭うように舌を這わせる。なぎさの血が喉を通った瞬間全身の細胞が歓喜するのを感じた。首の継ぎ目の疼きか治まるような、力が溢れ出すようなそんな気さえする。今までに味わったことのない真に美味な血を持つ少女なぎさ。これはなぎさだからか、それともなんらかの条件を満たしているからなのか。
「ヴァニラ、今後なぎさを傷つける事はこのDIOが許さぬ」 「はっ」
少し不服そうな顔をしたヴァニラを一瞥し、その視線をなぎさに移す。穏やかな寝息を立てて腕の中で眠る少女は私にとって善となるのか悪となるのか。
「ん、」
ふるりと長い睫毛を震わせてその瞳にDIOの顔を写した途端になぎさはふわりと微笑んだ。
「DIO」
どうしてこの少女はここまで真っ直ぐな瞳をDIOに向けるのか。DIOの姿を見ただけでそこまで嬉しそうに微笑むのか。
「なぎさ」
女を魅了する声色でその名を呼んでもなぎさはいつものように小首を傾げるだけ。淫らに腰をくねらせ擦り寄ってくる餌として召し上げている女共とは違う反応。
「日の光は嫌いか」 「うん。頭がね、くらくらするのー」
そして意識を失って倒れたのか。なぎさを片手で抱え、テレンスに持って来させた医療関係の本のページを捲り該当するモノを探す。症状は日射病と似ているがどこか違う。日光に弱いのか、当たってすぐ倒れたように見えた。
「私と同じだな」
すっと、DIOがなぎさを抱えている方とは逆の腕、左腕を日光の元へ晒せばその腕は直ぐに灰と化し腕に身に着けていた黄金の腕輪が音を立てて床へ落ちた。腕を闇の中に戻せばそれはすぐさま再生し、ヴァニラが拾い上げた腕輪を身に着ければまるで何事もなかったかのようだ。
「DIOはなぎと一緒?」
再生した冷たいDIOの腕を這うのは熱を持ったなぎさの指先。 DIOの腕の破壊と再生という吸血鬼の脅威の再生力を目の当たりにしてもなぎさは悲鳴を上げる訳でもなくDIOと同じく日光が嫌いな事をただただ喜んでいた。
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