「闇は嫌いだ…」
波打つシーツの上で、私の胸に顔を埋めた政宗がそう呟いた。
まるで縋り付くかのように、尻尾が足に絡みついてくる。
よしよしと頭を撫でてやると耳が少し動いた。
いつもこういう風に大人しかったら扱いやすいんだけどねぇ…。
胸に当たる髪の毛がくすぐったくて思わず身動ぎするけど、そんな事お構いなしに頭を押しつけてくる。
窓から差す月明かりだけが私達を照らす闇の中で、可愛い可愛い私の黒猫が今日も、闇に孤独に怯えて…泣く。
「何故、嫌いなの?」
「…闇の中には何も…ない」
私の背中に回された腕に力が籠る。
絡ませた足から、腕から、政宗の振動が伝わってきた…震えてる。
いつもより小さくなった背中を撫でてやる。なんだか小さな子供をあやしている気分だ。
「なら、私は政宗にとって何?」
「Honeyは…」
ゆっくりと顔を上げる政宗、隻眼からは光が消えていた。
そこに映っているのは闇だけ…私は何処にもいない。
闇に支配された空間で政宗の瞳は光を求めて彷徨う。
「Honeyは、俺にとって何だろうな…」
「さぁ…?それは私にも分からないわ…ただね、一つだけ分かっている事があるの」
「何だ?それは」
私と政宗は一緒よ
そう言えば政宗の目が大きく開かれた。今度はそこに、しっかりと私が映っている。
闇の中。この空間に居るのは私達だけ。
私達以外には誰も居ない。
「私も闇に怯えているの」
「俺もアンタも…一緒、か」
「そうね…私達は一緒よ」
もう何度目か分からない遣り取りを交わし、二人で笑い合う。
たまに、確かめたくなる。自分が一人じゃない事を。
私達は二人で闇の中、光を探してもがく。もがき続ける。
そうして気付くの、私達はお互いがお互いにとっての"光"だと。
いつの間にか、私達はお互いに無くてはならない存在になっていた。依存、していた。
そして闇の中、小さな光を抱きしめて眠る。
"独り"にならない様に。強く強く抱きしめて、抱きしめられて。
闇を照らすのは月明かりだけ
------------------
It's all darkness one step ahead.:一寸先は闇
|