俺は本気だぜ?


「今日、花火大会があるようですな」

幼馴染の政宗の家で晩御飯を食べている時郵便物を取りに行っていた小十郎がそう言った。
ざわざわと騒ぎだす伊達組の皆さん。
最近仲の良い女の子でも誘おうか、子供でも連れて行ってやろうか…
小十郎が丹精込めて作った野菜を口に運びながら皆それぞれ予定を立てて行く。

「Hey莉兎は行かねぇのか?」
「んー?行くような相手もいないし、友達は彼氏と行くだろうしねー」

あ、この漬物美味しい。
別に、好きで一人者でいる訳じゃないけど…と、心の中で呟きながらぱくぱくと漬物を食べる。

「なら一人者同士一緒に行くか」
「へ?」

予期せぬ事態。
そうしようそうしようといった感じで頷きながら二人で行くのは久しぶりだな、とか言ってる。
まだ行くとも言っていないのに政宗の中では一緒に行く事が決まったようだ。

「飯食ったら行くぜ」

断る理由なんて何処にもなくて、私は無言で頷いた。


政宗と二人で祭に行くのは久しぶりだ。
子供の頃はよく行っていたけど学年が上がっていくのに比例してそれもなくなった。

「政宗ー射撃やりたい!」
「相変わらず物好きだな。よし、やるか!」
「わーい!」

勉強でも、スポーツでも政宗に勝った事は一度もない。
そんな私が唯一政宗に勝てるのが射撃。
だから昔から出店で遊ぶ時は射撃ばっかりしていた。


…なのに


「…負けた」
「HA!いつまでも俺が莉兎に負けていると思うなよ?」

政宗が当てた大きなぬいぐるみを抱えながらとぼとぼと人気のない道を歩く。
政宗曰くこの先に穴場があるらしい。
ぐいぐいと政宗は私の腕を引きながら歩く。
早く来い早く来いと、急かすように引っ張る。
どうしてだろう、政宗から余裕が感じられない。


そして着いたのは少し開けた空間。
あ、星が綺麗。

「…莉兎」
「え?」

夜空を見上げていると不意に後ろにあった木に背中が当たった。
両手は頭の上で押さえつけられていて身動きが取れない。
足元にはぬいぐるみが転がっている。

何、この状況。
急展開過ぎて頭がついて行かない。

視界には政宗の顔と夜空だけ、それ以外は何もない。

妖しく光る隻眼が私を射抜く。
愛おしそうに私の頬を撫でる政宗の手が唇を撫でた。
その瞬間背中を電流のようなモノが走った気がした。
思わず身をよじる。

「好きだ」
「っ!」

耳元で囁かれたのは愛の言葉。

「…嘘っ!どうせ遊びのくせに…!私は、他の子とは違う!」

いやいやと頭を振る。

ただの幼馴染を男として見るようになったのはいつからだろう。
政宗と女の子の噂を聞く度に心が痛んだ。
ずっと好きだった、政宗だけが。
だからこそ、信じられない。
政宗の切羽詰まった感じの声と隻眼から逃れるように顔を背ける。

「違う、莉兎は他の女とは違うんだ…。」
「違、う?」

首筋にかかる吐息が熱い。
それだけで、政宗に余裕がない事が伝わってくる。

「あぁ、俺は本気だぜ?」
「本気?」

言い終わるか終らないか微妙な所で唇を奪われる。
木に縫い止められていた腕はいつの間にか政宗の首に回っていた。
息継ぎの合間に政宗が、他の子と関係を持っていたのは心にぽっかりと空いた穴を埋めるためだと、埋められるのは私だけだと…そう言った。


音が、した。
キスに夢中になっててよく分からなかったけどたて続けに鳴るこの音…花火だ。
目を開けると、政宗の後ろで色取り取りの花火が上がっていた。
もう始まったのか。
政宗もそれに気付いたようで振り返り、花火を見る。
しかし、その視線は直ぐに私に向けられた。
…さっきより自信に満ちた目をしている気がする。

「…返事は?」
「聞かなくても分かってるくせに」



今度は私からキスを一つ



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