狂気と愛


また一人…側室が死んだ。
たくさんいた側室も半分に減ってしまった。
それに比例して政宗様への縁談も減った。
でも、それは私(わたくし)にとってはとても好都合な事。
政宗様の正室という立場にいるのに、側室が沢山いる所為で政宗様の寵愛を受ける事が出来ないんですもの。

犯人はまだ見付かっていないようで、城内がとてもピリピリしている…けれど、私は大丈夫。

…だって私は政宗様に愛されているんですもの。

「…愛。居るか?」
「はい政宗様。愛は此処に」

ここ最近、政宗様は私の事を頻繁に訪ねて来て下さる。
体調はどうだ?怖くないか?
…私を心配して下さる。…あぁ、なんとお優しい私の旦那様




とうとう政宗様の室が私だけになった。
ある者は逃げ出し、ある者は実家に連れ戻され、そしてある者は…殺された。
やっと、やっとよ。
やっと私だけが政宗様の室に。

私だけの旦那様に。

私が嫁いだ時から居た側室も…もういない。


私だけよ





「    」

「…?誰か、居るのかしら?」


ある日、城内を歩いていると政宗様に決して近づいてはいけないと言われている離れの方から声が聞こえた。
近づくなと言われている所ほど、何かがあるのよ。

足音を、気配を殺し物陰から様子を覗く。
するとそこには、どう見ても豪華な着物に"着られている"一人の女。
あの女は誰?
何故、私より豪華な着物を着ているの?
何故、こんなところに居るの?
見目麗しいわけでもない、その辺にいる農民の女みたいな顔をしている…女。
本当何者なの…


「莉兎?何している?寒いだろ、こっちに来いよ。」

政宗様の声…あぁ、何故そんな所にいるのです?

「いいえ政宗様。もう少し…此処にいます。」
「…何を見ているんだ?」
「空を…月を見ています」
「月…?昼間に出てるのか?」
「はい。今日の月は三日月…政宗様の前立ての様な月です。」
「あぁ…そうだな」

政宗様が、庭に下りられた。
後ろから女の事を包み込むように抱きしめる。
…あんな事…された事ない。
あんな、顔を…政宗様のあのようなお顔も…見たことがない。


私の知らない政宗様が、そこにいる。


「俺より空に浮かぶ月に夢中だとは…妬けるな」
「ふふっ…私はいつも政宗様だけを見ています…貴方様だけを」
「当たり前だ。…愛してるぜ、莉兎。アンタだけを」
「私も…政宗様だけを愛しております」

二人の影が重なった…




何故何故何故何故何故!!
何故なんです!!

何故、私ではなく、あんな女を愛しているのです!?

やっと、やっとやっとやっとやっと!!
私だけのモノになったというのに…

「…其処に居る?」
「はっ愛姫様」
「殺しなさい。あの女を。政宗様に近付く女全てを」
「…御意」


邪魔者は全て…排除する
そしてもうすぐ何もかも終わる…



なのに



「やっぱりな」


「っ?!ま、政宗様!!」

見られた、聞かれた…聞かれてしまった
一番見られたくない人に…

血飛沫が…舞った。
私の忍びが彼の手で…殺された。
ぽたぽたと刀から滴る血が、畳に染み込んでいく。

「…何が、やっぱりですの?」
「お前だろ?側室達を殺したのは。いや、殺したのはお前の忍びか」
「な、何の事です?」
「もう、とぼける必要はねぇぜ?なぁ小十郎」
「はい政宗様。調べはついております」

あぁ…何もかも終わり
やっと私だけの政宗様になったというのに…

邪魔者を殺して殺して殺して…
なのに…
私より他の女を愛した…

私が…政宗様の一番
側室達でもなく、あの女でもなく…私が一番なのよ…


「あぁ、そうだ愛。最後にお前に言っておきたい事があったんだった」
「…政宗様?」


「Thank you愛。お前が側室達を殺してくれたおかげで俺は自分の手を汚す事無く莉兎を正室にする事が出来る。」


「政宗…様?」
「じゃあな、愛。俺はお前の事が















大嫌いだったぜ」











「いや…っ!いやぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」


私は…政宗様の一番…なの…に…





今回の結末、それは
殺人犯は片倉小十郎に捕えられ殺され…

そして愛姫は…


「See you」

「政…む…ね…さ……」


最後の犠牲者となった



真実を知る者は…二人だけ


「Hey小十郎。準備は?」
「既に整っております。」
「Ha!流石だな」




その後、政宗は農民の娘、莉兎を正室に迎えた。

側室を迎える事は…二度となかったという。




------------------





back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -