世界が赤く染まる


どすりと鈍い音がして、勝家くんのお腹を黒い手が貫いた。
あまりの事に声が出ない。
ふらふらと揺れるお市さまの顔色は一切変わらない。
地に伏した勝家くんを見るその目には何も映っていない。
ただただ、黒いモノがその瞳に渦巻いていた。

「かつい、え、くん…」

やだやだ。
死んじゃやだ。
手を伸ばしても風を切るだけで、勝家くんには届かない。
ねぇ、こっち見て。

「おい、ち…さま」

私を見てよ、勝家くん。
ぱたりとお市さまに伸ばした勝家くんの腕が、力なく落ちた。
涙と一緒に何かが落ちて行く。

「柴田さま…死んでしまったの…?」

こてりと小首を傾げ、黒い手から勝家くんの血をを滴らせながらお市さんは勝家くんに近付く。
だめ、止めて。
ダメだよ、お市さま。
もう、私から勝家くんを取らないで。

「可哀想ね…可哀想…可哀想…」

ふらふら、ふらふら。
左右に揺れるお市さまは、そのまま私の方に歩みを進める。
ごろりと黒い手が勝家くんを転がす。
やっと勝家くんと目が合った。
ねぇ、勝家くんのその目には何が映ってるの?
お市さまと同じ、瞳に映るのは黒、黒、黒…。
そこに、私はいないの…?
いつもみたいに莉兎さんって呼んでよ…ねぇ…勝家くん。

「可哀想な小鳥さん…もう、囀る事は出来ないの…?可哀想…可哀想…」

勝家くんのいない世界に、意味なんてない。
たとえ貴方が最後に手を伸ばしたのが私じゃなくても。






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