幸福な時間


夕暮れの教室でさわさわと飾られた笹が風に揺れる。
色取り取りの短冊の一つ一つに目を通し、自分の机に置かれた水色のそれを見る。
何て書こう。
何て書けばいいんだろう。
ありきたりなモノは小学生で卒業した。
なんだか痛い事も中学の時に書いた気がする。
なら、高校生になった私は、何て書こう。

「悩む」

別にないわけじゃない。
ただ、年に一度の逢瀬の邪魔をしてまで叶えて欲しい夢じゃない。

「Hey girl.まだ悩んでんのか?」
「伊達先生」

前の扉にはネクタイを緩めた我らが担任伊達政宗。
これ書くまで帰さないとか言って私を悩ましてる元凶だ。

「何て書けばいいか分からない」
「別に好きなように書きゃいいんだよ」

完全にネクタイを取り払い、第三ボタンまで開けたエロ教師はそう言って私の前に立った。
すっと先生の手が私の方に伸びて来て頬を包まれる。
なに、と軽く首を振って抵抗するれば両手でがっちりとフォールドされた。

「先生は、書いたの?」
「俺の願いはここにゃ飾れねぇな」
「この淫乱教師が」
「俺は欲しいと思ったもんを手に入れようとしてるだけだ。なあ、莉兎?」

両頬を掴まれている所為で逃げ場がない。
それを知ってか知らずかわざとゆっくりと近付いてきた淫乱教師こと伊達先生はちゅっと私の唇を啄ばむと案外あっさりと離れた。

「そろそろkissにも慣れてきたか?」
「どっかの変態教師のお陰でね!」

先生の腕から抜け出し、キッと睨みつけても何処か余裕そうに口元を吊り上げるだけ。
面白くない。
なんなの、これ。

「先生、遊びなら余所でやって下さい」
「これは遊びじゃねぇって、何回言わせる?」
「何回言われても信じられないです。だって、私と、先生は」
「生徒と教師、か?」

分かってるじゃないですか。
そう言おうとした口は、また塞がれた。
今度はがっつり舌が入ってくる。
にゅるりとした感触。
これを私に教えたのは、目の前で私の口内を蹂躙する教師だ。
なんの経験も、知識もない私にコイツはキスを教えた。
教師として、生徒の私に。
…ほんと、淫乱教師が。

「…抵抗しねぇのな」
「無駄だと分かりましたから」
「よく言うぜ。アンタ、俺に惚れたんじゃねぇの?」

なんて得意顔で言うコイツの顔面を殴りたいと思ったのはこれが初めてじゃない。

「…願い、決まりました」
「おい、無視するんじゃねぇよ」

さらさらと水色の紙にマイネームペンで文字を書く。

アンタに惚れた?
そうよ。
強引なくせに優しくて、孤立していた私に手を差し伸べてくれた伊達先生。
屈辱的だけど、…好きよ。
私が欲しいというその言葉に、嘘偽りはないと思うから、だから。

「はい、書けた。さよーなら、先生?」
「おい、」

紙を押し付け、鞄を手にとって教室を出る。
ムカつく。ムカつく。
だから、困らせるの、貴方を。




「…おいおい、まだ俺に我慢しろってのか?まったく、困ったgirlだぜ」






だって私が"生徒"で貴方が"教師"な限り手、出せないでしょ?



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