血まみれの体に口づけを


私の父親はロクデモナシのジャンキー
母親は父を馬鹿みたいに愛していて
馬鹿な父の為の薬を買うために働いて働いて働いて…

働き過ぎて死んでしまった馬鹿な女

兄と姉は借金の所為で厳ついお兄さん達に売られ


私も今日

売られる


「へーなかなか可愛いお嬢さんだね―」
「この子だったら借金、チャラで良いよ」
「まだ若いけどそういう趣味のおじさん達がきっと高く買ってくれるから」

私の体を舐め回すかのように見る男達に嫌悪感
そんな男達にヘコヘコと頭を下げる父親にはもはや、何の感情も湧かない

この男の血が流れてるんだと思うとそれだけで反吐が出る


ああ、私の15年間何も楽しい事なんてなかった
この馬鹿は私達なんかより薬を愛していて
そんな馬鹿をどうしようもないくらい愛していた馬鹿な母親
兄と姉と私はそんな二人の機嫌を取りながら暮らしてきた

そんな生活ももう終わり
これからの人生は人形のように私を買った人のご機嫌をとりながら生きて行かないといけない

…どちらにしろご機嫌取りはしないといけないのか

「はは、」

乾いた笑いが口から出た

もう、何もかも諦めてゆっくりと目を閉じた、その時



―――ピュンピュン

それはほんの微かな音


そして一瞬の出来事



男達が何事かと慌てだし

またあの音がして

くぐもった音がして

父親の悲鳴がして

何かが崩れ落ちる音がして

私の体に生温かい何かがかかった


「…?」

ゆっくりと目を開ければ床に転がった死体と

黒いコートを着た男

「あなた誰?」

そう問いかければ男は振り向き、サングラスを外して私を見据えた

私を捕える、龍のような青い瞳

「assassin」
「あさ…?」
「…掃除屋、だ」

掃除屋
そう言った男は自嘲気味に微笑み、私に銃口を向けた

「…殺せば?」

私はついさっきこの世のすべてに絶望したの。
だから今ここで殺されても貴方を恨んだりはしない

―――むしろ殺してほしいぐらいよ


そうはっきりといえば男は微かに笑って銃口を私から逸らした

「…女子供は殺さない主義なんでね…残念だがアンタの望みはかなえてやれねぇな」
「残念」
「行く所はあるか?なら今直ぐ俺の前から消えろ」

私の返事を聞く前に男はばさりとコートを翻して私に背を向けた

ッ待って!

ぎゅっと咄嗟に男のコートを掴む

父も母も随分前に親戚からは見離されていて私はその人たちに会った事なんてないし住んでいる場所も知らない

「…」

だから、

「行く所なんて、ない」
「…あっそ」

そう冷たく言い放った男は再び歩こうとする

待って待って!
いたいけな少女(?)が助けを求めてるんだから!!

「連れて行って」
「あぁ?」
「行く所ないんだから連れて行ってよ」
「…邪魔なだけだ」

カチャリと音がして額に冷たいモノが当たった

「…私の父親を殺したのはアンタよ」
「俺の事を見た奴は殺す。が、申し訳ねぇとは思ってる」
「勘違いしないで。別にアンタが殺さなくてもいつか私が殺ってた」
「……」
「貴方には感謝してる。でも、私を路頭に迷わせたのはアンタよ?だったらその責任を取って私を連れて行って」

ぎゅっと男のコートを掴む手に力を込めた

「掃除に洗濯…家事ならなんでもできるし、アンタがやれって言った事は全部やる。だから」

――連れて行ってよ…

はぁと溜息を吐いた男は何か考えるように血飛沫の付いた天井を見上げた後、私に視線を戻した
銃に着いた返り血を拭き、コートの中に仕舞う

「…名前は?」
「咲野 莉兎…」
「俺は伊達 政宗だ…着いて来い」

そう言った男…政宗は私の手を引き、歩き出した



こうして私と掃除屋政宗の奇妙な共同生活が始まった



毎日決まった時間に起きて、政宗のリクエストを聞いて朝食を作り、彼が仕事に出かける時は見送った後私は自由に過ごす
仕事がない時は一緒に筋トレをして、銃の整備をする
夜はご飯を食べてお風呂に入って寝るだけ

それだけが続く日々

でも、飽きる事なんてない

政宗と共に過ごす時間が楽しくて仕方ない

そこで気付いた

―――あぁ、私政宗が好きなんだ

きっと、あの日、目が合ったあの瞬間
私は恋に落ちた

そう自覚すると、今までの日々をもっと楽しく感じるようになった



「ねぇ政宗」

ある日の午後
銃の整備をしている政宗の前に座り、頬杖を付きながら話しかけてみた

「Ah?」

銃から目を離す事無く答える政宗に、少し淋しさを感じてずいっと顔を近付ける

「私、欲しいモノがあるの」
「…なんだ?」

眉を寄せて私を見る政宗
あ、やっとこっち見た

ぐでーとテーブルに上半身を預け、見上げる

「愛か死よ」
「莉兎、」

私の名を呼んだ政宗は何故か辛そうな顔をした

「ねぇ、ゲームしよう?」

考え込み出した政宗から銃を奪い取り、弾を数発込める
考え事をしていたせいで政宗は反応が遅れて、好きにしろといった感じで背凭れに体を預けた

リボルバーの整備は政宗の手伝いでかなり慣れたモノだ

シリンダーをくるくると回し、カチャリと音を立てて止まると同時に頭に銃口を当てる

政宗の表情に焦りが見えた
何してるとでも言いたそうな顔をして私を見る

「私が勝ったらこれからも傍に居させて?」
「…俺が勝ったら?」
「政宗の前から消える」

…どっちにしろ、莉兎の願いは叶うんじゃねぇか

ふっと苦笑をこぼす政宗
そんな彼に笑いかけてゆっくりと引き金を引けば

「やめろ」

政宗の低い声が鼓膜を揺らす
止められた事が嬉しい、なんて

「…どうして?」
「音で分かる…莉兎、アンタの負けだ」
「だったらいいじゃない。…私の願いが叶うだけなんだから」

そう言って微笑めば政宗は口をつぐみ腕を組んで私を見据える

「荷物が減って、仕事がしやすくなるでしょう?」

最後は、自嘲気味に微笑む

貴方に拾われて、私の生活は一変したわ
色褪せた世界に色が戻った
何もかもが楽しくなって
…そして、恋をした

今まで以上に優しく、儚く微笑む
つぅっと、頬を冷たい何かが伝った

ありがとう政宗
そして、

「愛してる」

思いっ切り引き金を引いた










――――――パンッ





















「く、あははっ」

引き金を引くと同時に手を叩かれ
破裂音がして
何かが割れる音がして



…私の体は何か温かいものに包まれた



それが政宗の腕の中だと気付くのに、あまり時間はかからなかった

「はぁ…」
「私の勝ち」

そう言いながら、視界に入った政宗の首筋に口を寄せる

「無茶しやがって」

そう言って吐息で笑った政宗は私の体を離しゆっくりと顔を近付けて来る

「政宗、愛してる…愛してるの」
「俺もだ」

何度も何度も愛の言葉を囁く私の唇をもう黙れとでもいうように政宗は自分のそれで塞いだ
何度も、何度も貪るように

愛を、伝えるように


(あぁ、私の愛しい殺し屋さん)

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映画『LEON』から台詞を引用




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