「にゃぁ、」

脚にまとわりつく猫が声を上げる。気まぐれに振り払い、撫で回してやればうぐ、と低い声をあげた。内蔵でも掠めたのだろう。
膝を叩けば嬉しそうに身体を預けてくる。首輪から伸びる鎖がジャラジャラと音を立てるが不思議と耳障りではない。

「撫香」

小首を傾げる彼女は、完全に猫になりきっていた。首輪から伸びる鎖は両手首に嵌められた手錠に繋がっていて、人らしさを根こそぎ奪ってしまっていた。
四足歩行を強いる趣味の悪いそれは銃兎からの贈り物だ。今日は猫の日なので貴方方に、とこれを取り出し時は別に驚きはしなかった。奴の趣味だと言われても納得するだろう?そういう事だ。

『ンだよこれ』
『金持ちの間では流行っているらしいですよ?腕の自由がある程度制限され、四つん這いであることを強いられる。飼い主とペットごっこにはもってこいです。ほらぴったりでしょう?』
『確かに』

撫香と共に興味深そうに眺めていた理鶯まで頷くのだから反論するのはやめた。真顔で頷くなと言ってやりたかったが、笑みを携えられても反応に困る。
撫香の青い瞳が期待で輝いていたから大人しく持って帰ることにした。俺のど変態なネコチャンはこういったプレイにも乗り気らしい。あまりにも期待した瞳で見上げられるので帰りに猫の気持ちを買ってやった。真面目に読んでいたのでついでにそれらしい下着も見繕ってやることにした。どうせやるのなら、俺の趣味に塗れた猫になりきればいい。
ならばこれもと銃兎が猫耳と尻尾を取り出した時はさすがに引いたけどな。

「メシは?床で食うか?」
「……」
「首振ってたら分かんねぇだろうが。……あ?食わせろってか?」

小さく切ったハンバーグを掌に乗せてやればはぐはぐと美味そうに平らげる。いちいちソースまで丁寧に舐めとるため、食べさせるのに相当時間がかかる。スプーンに乗ったスープをぺろぺろと舐めている様を見ているともどかしてく何度も口の中に突っ込んでやりたくたる。

「撫香チャンが食うの遅せぇせいでよ、腹ァ減ったんだけど」

伝わったのか伝わっていないのか、こてりと首を傾げた彼女はジャラジャラと再び音を立てながらテーブルへと身体を伸ばした。口に挟んだハンバーグをぐいぐいと俺の唇に押し付けてくる。食べろ、ということらしい。口を開けば撫香用に切った小さな塊が転がり込んでくる。満足げに笑う俺の猫が可愛くて、ハンバーグを塊のまま胃に押し込んで、緩く弧を描いた口を食んでやる。何度も何度も角度を変えて、ジャラジャラと音を立てて。

「ん、ぁ、さまとき、さ」
「あぁ?ちげぇだろ撫香」
「……にゃぁ、」

ここまでしておいて、まだ恥じらいはあるのか、ほんのり耳を赤く染め小さく首筋で鳴いた俺の猫は、そのままかぷりと噛み付いてきた。ちろちろと舐めてくるので擽ったい。マーキングのつもりらしい。この猫はどうも、可愛いことを無自覚でしてくる。
食べかけの夕食はそのままに、ベットに放り投げた猫に伸し掛る。ああ確かに、これは俺たちにぴったりかもしれないな。漏れる吐息はこの先に待っている行為への期待で心なしか熱っぽい。ベッドライト以外を消せば、尻尾が揺れた。耳もひくひくと手招いている。錯覚か否かはもうどうでもよかった。何もかもを脱ぎ捨てて、欲望のままにしなる身体に手を伸ばす。獣のように求め合うのも、たまには悪くない。




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