雨に降られる。小雨だからと傘を差さずに駅まで走る。子供みたいに笑う貴方の、水の粒の乗った長い睫毛がきらきらして綺麗だと思った。
組の車はエンスト、銃兎さんは捕まらず、交通手段は己の足のみ。普段なら左馬刻さんと2人で横浜の街を歩けるというシチュエーションに心が踊るのだが、今日ばかりはそうはいかなかった。
今日は特に仕事がないため、事務所に顔を出したあとは久しぶりにデートでもしよう。そういう、約束だった。なのに。いざ事務所に着いてみると飛び込んでくるトラブルトラブル、トラブル。左馬刻さんは処理に追われ、私は一日中放置状態。やっと左馬刻さんが解放されたのは日付が変わる少し前で、煙草を3箱も空けていた。
私の手を引いてずんずんと歩く左馬刻さんは、とても不機嫌ですれ違う人々から生気を奪っていくかの様だった。彼の通った後は顔を白く染めあげた人でいっぱいだった。それほどまでに、彼は怒っていた。
空までもが左馬刻さんに恐怖しているかのように、逆鱗に触れないようにその煌めきを徐々に隠していった。ぽつりと頬に触れたのはあまりの恐ろしさに零れた涙なのではないかと錯覚する。

「左馬刻さん、雨が、わふっ」
「ん?あぁ、悪ぃな。ただでさえ低い鼻が余計低くなっちまったんじゃねぇか?」
「む、余計なお世話ですよ」

よしよしと私の鼻を擦る左馬刻さんの綺麗な髪の毛を空の涙が犯していく。車のライトに照らされてネオンを反射させれば、左馬刻さん自身が夜の街になったのではと馬鹿な錯覚を生み出した。

「ンどくせぇな……傘でも買うか」
「……走りましょ」
「アァ?」
「小降りですし駅も近いので、走っていきましょう!」

制止の声なんて聞こえないふりをして。左馬刻さんに向けられる視線を振り払うように。夜の街を駆けていく。負けた方がお風呂の準備ですよ、なんてくだらない勝負を挑めばなんだそれと今までの張り詰めた空気が嘘みたいな無邪気な笑いが零れた。
水たまりで遊ぶ子供のように濡れることを厭わず雨の中を駆けていく。無邪気に笑う左馬刻さんの長い睫毛に乗った水滴がネオンをうつしてキラキラと輝くのを、綺麗だと思った。




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