視界は鈍くぼやけ、音は壊れかけのラジオから流れているよう。触れるもの全て冷たくて、まるで私一人だけ水の中にいるみたいだ。周りに合わせて姿を、好みを変える私は外界の光を反射させる水に覆われてるんじゃないかとたまに思う。冷たいまま人の間を縫って、形を変えられ、そして棄てられる。誰も私の本当の姿を見ていない。誰も、私を知らない。誰に触れられても冷たくて。誰の声も不明瞭で。そしてきっと、誰も私を私と認識していない。私の人生は水の中から外界を眺めて、終わるのだとずっと思っていた。
左馬刻さんに出逢うまでは。
初めて肌を重ねたあの日、ざばりと、無遠慮に水から引き上げられたような気がした。外の空気は思ったより澱んでいて。太陽の光は思っていたより眩しかった。開けた視界は色々な情報を私にもたらす。鮮明に聞こえる音はうるさい程だった。世界は、これほどまでに広くて眩しくて、喧しいものだったっけ。
何度も肌を重ねていくうちに冷たかったはずの私の身体が、左馬刻さんが触れる場所だけ熱を持つようになった。まるで左馬刻さんが触れた箇所から人に成っていくようだ。水に深く深く沈んで行く私を何度も引き上げてくれる。ハマのネオンを反射させる髪の毛がキラキラと私の視界を侵す。周りの音を拾っていた私の耳は、ついには左馬刻さんの音だけを拾うようになった。ふと周りを見渡せば何もなくて、ただ左馬刻さんのぬくもりだけを感じていた。
何処ともしれない水の中で漂っていただけの私が、今では左馬刻さんの中を浮遊している。ああ、なんて幸せなんだろう。私の全ては左馬刻さんのもの。私の全てを左馬刻さんが支配している。このまま溶けてひとつになれたらいいのに、なんて、馬鹿なことを考えてしまう。
左馬刻さんしかいないこの世界で、私は今日も幸せに揺蕩うの。




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