『助けてくれ』

そんなメールが入っていたのがつい一時間前。そこから2分置きに着信履歴の嵐嵐、嵐。俺の履歴から「八弦」という文字以外が消えてしまった。それほどの着信件数。途中で数えるのはやめた。なんだこれは。あれか?ヤンデレってやつか?いや、メンヘラの方か。いやそんなことはどうでもいい。今重要なのは電話と同時に送られてくるこのメールだ。徐々に俺の家へと近付いて来ていないか?なんだこのメリーさん現象。
ほんと、どうしたんだ。

「なぁに?女?」
「いや、女の子だったらどれだけよかったかな……」
「ふーん。まあいいわ。私帰るから。面倒ごとはごめんよ」
「それはもちろん。家?店?」
「家に決まってるでしょ。善慈の家から来ました感満載の黒塗り車で出勤なんかしたらあとが怖いもの」

ちゅ、とわざとらしいリップ音を立てて部屋を後にした女の背中を見送り、俺もいそいそとシャワーを浴びる。後腐れのない女が好きだ。やることはしっかりするがその後はさっぱり。そんな関係が理想的。だから

「こうしてわざとらしくピアスを忘れていくような女とは、二度とないな」

綺麗に弧を描いてゴミ箱に落ちていったピアスと共に連絡先もダストシュートする。もう少し上手くして欲しいものだな、とため息をついたところでこんなことしている場合じゃないと思い出す。先程連絡先を消す際に届いた通知。『今門』確実に背後を取りに来ているメリーさんから逃れるか、今の俺にはそれが1番の重要事項だった。今年一番の緊張感を味わっている。冗談抜きで、だ。確かに日頃から八弦をからかって遊んではいるが今回は全く身に覚えがなかった。朧になにかした記憶もない。それなのに八弦はスタート地点から察するに俺への怒りを膨張させながらゆっくりと近付いてきている。徒歩で。あえての徒歩で。

『離れに着いたよ』

ここまで来ると逆に現在位置を知らせて心構えをさせようという八弦なりの優しさなのではないかとさえ思えてしまう。構える心なんてないんだけど。
スパーンと綺麗に音を立てて襖が開け放たれる。ちょうどタバコに火をつけようとして居たのだが風圧でマッチの火が揺れた。相当お怒りらしい。

「…………は?」

顔を上げたその先、太陽の光を受けてキラキラと輝く髪も陶器のように白い肌も俺を叱るときに決まってなる眉の形も全てが八弦。間違いなく八弦だ。そう、着物から覗く立派な谷間以外は。

「…メリーさんどうぞお帰りください」
「それはコックリさんだろう。そうじゃなくて善慈、いいから早く戻せ」
「いや、戻せと言われても…え、なに、なにが起こった…?」
「うるさい。こんなことをするのは大方君ぐらいだろう。部下と違法マイクまで使って…見損なったぞ」
「何もしてないのに好感度下がってるんだけど。いやそうじゃなくて、なに?君、違法マイクのせいで女になったのかい?」
「だから、君が仕組んだことなんだろ」

それは心外だ。さすがに違法マイクを持ち出したりはしない。とりあえず中に入りなよ、と促せばさも当然のように隣に座って来る。…警戒しているのかしていないのかどっちなんだ。
しかし、近くで見ればただでさえ細い体はさらに細く、柔らかくなっているし、心なしか輪郭も柔らかい。元々中性的な男だったため分かりにくいが、しっかり女へと変わっているようだった。
それにしても、俺はもし八弦が女になったら胸は小さいとばかり思って居たのだが…

「いや、でかくない?」
「…なぎがさ」
「胸。俺絶対八弦♀は貧乳だと思ってたんだけど…えぇ…これEはあるだろ」
「んっ、おい!揉むな!無遠慮に!」

ぱしりといつもより強めに叩き落とされた。どこもかしこも柔らかい。これは正真正銘八弦♀だ。外で何があったのかはわからないがとりあえず見知らぬモブに感謝を後で殺す。
八弦曰く、出先で急にヒプノシスマイクでのバトルを挑まれたらしい。違法マイクで女体化などありふれたことをやってくれる。なんならアサクサ全員まとめてにして欲しかったものだ。その方が絶対に面白いのに。20点減点。主犯は殺した後うちの猟犬の餌にでもしてやる。
ちなみにどこまでも俺を疑っていたようだったが「俺なら目の前で最高のショーを楽しむね」と言えば確かにと頷いていたので疑いは晴れたようだ。全く嬉しくない。最初から疑わないで欲しいものだ。まあそんな面白そうなイベント、起こさないはずがないのだが。

「それで?どうして俺の家に来た」
「いや、単純に女性ものの服が欲しくて」
「それでなんでまっすぐ俺の家に…?言っておくけど、女性ものの服も下着も常備してなからね。とりあえず今日は適当に用意させるけど…」
「待って。サイズを言ってもいないし測ってもいないのに?」
「そんなのさわれば分かるさ」
「君、本当に救えないね…」
「真顔で言うのやめてくれない?」

腰を抱き寄せればやめろと突き放され、髪をいじれば触るなと拒絶される。八弦の通常装備はどうもガードが固くて困るな。付け入る隙がない。
触るなと言うのなら、そっと顔を近付けて耳元へ口を寄せる。ぴくりと反応した八弦は、俺が近づくのを拒みはしなかった。

「なあ、八弦」
「…っ!」

ならばと八弦が一番悦ぶ声で、甘さで囁いてやる。俺が躾けた身体はそれだけでぶるりと歓喜するのだからやめられない。

「バカな八弦。俺がこんな楽しいこと、簡単に手放すわけないだろ…?ほら、おいで。女の子の八弦にはちゃんと女の子の快楽を教えてあげる」

なけなしの理性を振り絞って目で、訴えて来る。やめろと、こわいと、かえしてくれと。それでももう一言、そっと囁けば八弦の理性など簡単に崩れ去る。自分で服を乱しながら俺にまたがって来る瞬間がたまらなく好きだ。
目の前に差し出された真っ白のマシュマロのような胸を食みつつ、これからの展開に1人胸を踊らすのであった。


「ちなみに、だけど八弦。君本気で俺のところに服の調達を依頼しに来たみたいだけどさ」
「…声が、出にくいんだ。さっさっと言ってくれ」
「いや、君元々中性的な顔なんだからこの胸さえ晒しで抑えれば余裕で1日ぐらいやりすごせたのになって。どうせ違法マイクの効果なんて1日以上は滅多に保たないさ」
「……あ、」
「ほんとに君は、バカだなあ」




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