週に一回のペースで、フラペチーノを買いに来る厳ついおにーさんがいる。新作が出ている時は必ず新作を。店内で飲むわけではなく、そそくさと出ていくその鋭い姿に、何度も私の心は射抜かれた。キレイな横顔も、姿からは想像出来ないその低い声も、フラペチーノを頼むというギャップも、全てが私の心を奪っていった。今週はいつ来るのだろう。甘いのが好きなのなら、私のおすすめのカスタマイズを言ってみようか、なんて。そんな勇気もないのに頭の中は話しかけよう、どのタイミングで、どうやって。そればっかりだ。次に会える日が楽しみで仕方がない。


「え、じゃあお店の中でゆっくりした事ってないんですか?」
「こんな甘ったるい匂いの中でどうやって落ち着けっつーんだよ」

それはある、冬の日だった。今にも外にちらつく雪に溶け込みそうなその人は、対照的な女の子を連れてやってきた。さりげなく腰を抱かれた女の子はスラスラとフラペチーノをカスタマイズしていく。最後にブラックコーヒーを頼んだ。

「……なんだ今の、呪文かなんかか?」
「あれがカスタマイズってやつですよ」
「意味わかんねぇ。つーか、それが飲みたいなら最初から言えや」
「だって左馬刻さん、絶対言えないし覚えられないと思ったから」
「あ?るせぇなぁ」
「ふふ、図星」

女の子の手にはフラペチーノ、その人の手にはホットのブラックコーヒー。一口もらって心底理解できないという顔で「クッッソあっめぇな」と言っていたので甘いものは得意ではないのだろう。それなのに女の子のために毎週買いに来ていたのか。人の目も気にせずに。好きでもない甘いフラペチーノを、新作を。身を寄せ合うようにして2人はいつの間にか視界を白く染めるほどに降る雪の中へと消えていった。
流れる音楽が鮮明に聞こえるほど静まり返った店内。いつの間にか常連となっていたお姉さん達も、女性定員も、全員が俯いていた。雪のように鋭い冷たさを持った左馬刻と呼ばれたあの人は、いつの間にか幾人もの心を盗んでいた。
雪が溶ける頃には、この恋心は過去のものだと言えるようになっているのだろうか。白銀に染まっていく外の景色を眺めていると、何故だか涙が零れた。




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