訪ネ人-肆-



店に背を向け、立ち去って行く梵天を見送る
やはり、梵天を捜していた彼は店が見えなかったようだ
どれだけ目を凝らしても彼にこの店が見える事はない

「それも必然、か」

梵天達の後ろ姿が森の奥へ消え、そこで感じる違和感

…おかしい
長い間この店を営んでいるが…これは、初めてだ

この店は何故か全ての世界から切り離された場所にある
理由は知らないが、どうやらこの店を始めた人が原因らしい

話がずれた

とりあえず、この店の外の景色は四季などは全て客の"世界"に影響される
たが、それはこの店の半径数メートル以内に入った時点で、だ

なのに、梵天が店から離れても周りの景色が変わることはない
勝手口もそのままだ

…どうも、この店にとって梵天は"特別"らしい

店に上がり、廊下を歩く
私が歩く度にぎしぎしと音を立てる

ふらふらとあてもなく店の中を彷徨い、辿り着いたのは宝物庫
扉から漏れてくる、風

そういえば、私がこの店の店主になった当初もこうして風が漏れていた

用のない時は決してこの宝物庫に辿り着く事はない
なのに、こうして辿り着いた

…扉の向こうから私を呼んでいるのが分かる
確か、初めてこの扉の前に立った時もそうだった…
踏み入れた先で待っていたのは、あの人の死―――

…なんて、

「感傷に浸るなんて…私らしくないわね」

くすりと自重的な笑みをこぼして宝物庫の扉を開ける

様々なモノが置かれているこの部屋で、他のモノに目もくれず、向かった先にあるのは1つの大きな箱

いつもそう、この宝物庫に来ればここにあるモノが私を呼んでいる
"使え"と言っている

蓋を開け、中身を確認する

これを使えと、いうことか
まだ、梵天の願いを聞いていないのに、店はすでに"これ"を用意している

こんな事、今までにない
異様なまでに梵天を特別扱いする店

蓋を閉じ、宝物庫を後にすれば、後ろで独りでに扉が閉まった

縁側に戻れば待ってましたと言わんばかりに紫煙を上げる煙管が置いてある
こうして私に…店の店主に煙管などを用意するのは分かるが…何故、梵天まで

煙管をくわえ、未だに消えていない勝手口を眺めつつ紫煙を吐きだした

私の記憶が正しければ、梵天の住むこの世界は俗にいう"戦国時代"
梵天は将来奥州を束ねる伊達家の人間

…梵天への介入は歴史を変えるのだろうか

そう考えて、ふと笑みがこぼれる
いや、この梵天の"世界"はどこかおかしい

「目に見えるところも、視えないところも」

梵天と私が出逢った事もまた必然
歴史の改善なんて、心配したところで、だ

さぁっと風が吹いた

此所は、何処だろう

アナザーワールド?
パラレルワールド?

それとは違うこの世界
不思議が溢れている此所は何処だろう

何故この店はこれ程までに梵天を特別扱いするのだろう



…なんて、それは私には関係無く、無意味な事
この店の事を考えても答えなど出てこない
考えた所で何も始まらないし、終わることもまた、ない


私はだだ店に訪ねてくる人の願いを叶え、待つ、だけ

「私を此所から出してくれる人を」







梵天の世界の夜
梵天の世界の月

グラスを傾ければカラリと氷が音を立てる

見上げれば夜空に浮かぶ三日月

梵天の目のようだと思いながら
グラスに口をつけた




[前項] | [次項]

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -