訪ネ人-参-



ぎゅうぎゅうと力の限りに椎娜の体を抱きしめる
おずおずと背中に回される手
着物越しに伝わる温もり
何故かそれが嬉しくてもっともっとと力を込めればさらりと頭を撫でられた

「梵天」

椎娜の口から紡がれた自分の名前
他の誰に呼ばれるものよりも暖かく、それは響く

「椎娜」

顔を上げれば柔らかく微笑む椎娜
ゆっくりと頬を撫で上げる椎娜の指に擦り寄れば更に椎娜の頬が緩んだ気がした

「また、会えるか?」
「もちろん」

ぱちりと星が飛びそうな勢いで片目を閉じる椎娜

「此処は願いがある者だけが入れる店

梵天が願いを持つ限り、再び、逢える」

「あぁ…あぁ、絶対な!」

ぎゅっともう一度抱きつけばわしゃわしゃと頭を撫でられた

「さあ、今日はお帰り」

気付けば勝手口の前で、ぎぃと椎娜がそれを開ける

「次来る時は玄関から入っておいで」
「は…?」

「梵天丸様!!」

聞きなれない単語がして、店から一歩出た所で振り返れば聞こえたのは、オレの守役の声

あぁ、これはだいぶキレてやがる

「探しましたぞ!」
「小十郎」

小十郎は数少ないオレのよき理解者だ
椎娜の事を話したくてうずうずする

小十郎、小十郎、あのな

「小十郎!店でな!」

小十郎の袴の端を掴みぐいっと引っ張れば腰を屈める
さっきまで深く刻まれていた眉間の皺はなくなっていて小十郎にしては柔らかい表情だ

「梵天丸様がこのように嬉しそうにするなど、珍しいですな」

そう言って俺の背後にある店の方を見る
そうだ小十郎、オレは其処にある店で椎娜に、椎娜と、

「…店、とは、何処にあるのですか」

身が面白いくらいに固まったのが自分でも分かる
小十郎は、何て言った?

―――店が、ない?

「…っ?!」

バッと勢いよく振り返れば、確かにある店
なのに小十郎は目を凝らし店を探している…―――



――――此処は願いがある者だけが入れる店



さっきのあの、椎娜の言葉

小十郎には、見えて、いない
小十郎は店に入れない――

「行くぞ、小十郎」
「…はっ」



――椎娜の店に入れるのはオレだけ


オレだけの椎娜


オレの、モノ――




[前項] | [次項]

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -