「………ふーん」
と、返って来るのは興味なさげな返事
というよりか、これは
「少年、信じていないでしょ」
「おう」
即答。
まぁ、これが普通の反応
いきなり此処は願いが叶う店なんて言われて信じろという方が難しいでしょうね
それに少年は来ただけで何もしていないし見ていない
「まぁ、いいわ」
ふうと嘆息して少年を立たせ、後ろに回るりぐいぐいと勝手口へと背を押す
「とりあえず、今日はお帰り」
「ちょ、」
少年から上がるは抗議の声
私の手を振り払い不安げに寄せられた眉に、瞳には哀しみが溢れていて…
あぁ、やらかした
「なんで、オレを帰らそうとするんだよ!俺が!じゃ」
しー
目線を合わせるようにしゃがみこみ、人差し指を少年の口に当てればう、と口を閉じた
「少年」
できるだけ優しく笑いかけ、安心させるようにその小さな頭を撫でてやる
そうすれば哀しみの色は少し薄れた
頼りなく垂れ下がった眉はそのままに私の言葉を待つその姿はあまりにも可愛らしくて、口元が緩むのが分かった
「君を探している人が居る。その人を悲しませてはいけないよ」
そう言えば下を向き、何か考えだした
そうこうしているうちに、少年を探している人は此処に近付いているのだが…
彼はきっと此処には入れない
外からの気配でそう直感した
そのためにも今のこの状況で少年が此処に長居するのはあまり良くない
ばっと顔を上げた少年は何かを決意したのか今までに見せた事のない凛々しい顔をしていた
「オレは伊達輝宗が嫡男、梵天丸」
名乗るのは自分からだと教えられた
そう誇らしげに言う彼は賢しいのだろう
教えられた事をすぐに飲み込みされにそれを今此処で実践している
それは少年に教えた人物のお陰かもしれないが…
それにしても情報を与え過ぎだ
赤の手人で、(自分で言うのもなんだが)こんな怪しげな店を営んでいる私に自分の名だけではなく親の名自分の立場なで教えるだなんて…
あぁ、なんて愚かで、無垢で、愛らしい少年なのだろう
出逢ったばかりの私に少し心を開きつつある少年
なら、この少年の心を折るような真似は望ましくないな
「私は願いが叶う店の店主、溯乃俳 椎娜」
「…椎娜」
ぼそりと私の名を呟く
それからは狂ったように、玩具を貰った子供のように目を輝かせて
「椎娜、椎娜椎娜椎娜!!」
ぎゅっと腰辺りに抱きついてくる小さな少年
空いた手が行き場を失う
――分からない
温もりを忘れた私には、どうしたらいいか…
分からない―――
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