訪ネ人-壱-



その日の客はいつもと違った

縁側に座り、煙草をふかしていれば
一瞬目を離した内に店を囲む塀にできた勝手口
あぁ、店も勝手に姿を変える事もあるのか
なんて暢気に考えていればそこからひょっこりと現れたのは顔の右半面に包帯を巻いた小さなお客

私の姿を見て一瞬顔を顰めたが好奇心からか一歩、また一歩と近付いて来る

「いらっしゃい、少年」

煙管を置き少年を見据え、にっこりと微笑めば訝しいげな視線を投げられる
5、6歳ぐらいだろうか
それにしても年に会わない大人びた雰囲気をしているな、この少年

やはり、目が行くのはその愛らしい顔に巻かれた包帯
単なる怪我、という訳ではなそうだ

なにやら禍々しい物を感じる…

「嘘くせぇ笑顔」

吐き捨てるかのように言った少年
あぁ、彼はこの笑顔が嫌いなのか

すっと笑顔を引っ込めると怯えたように肩を揺らす
その目は私を探るように動いた

その年にはそぐわない過酷な環境に身を置いているのだろうか、人の感情やその場の空気を読むのに長けているようだ

表情を柔らかくし、隣をポンポンと叩いてやる

そうすれば少し緊張を解き、素直に隣に腰を下ろした

足をブラつかせ、私を見上げる瞳には寂しさの、色

「女、ここは店なのか?」

色が、瞳が、形が、宿った意思が
龍のようだと、思った

「どうしてそう思ったの?」

憂いを漂わせるこの少年は何故、この店に…?

「んー…アンタがさっきいらっしゃいって言ったからだ」
「そう…少年賢いのね」
「…っ!?」

よしよしと頭を撫でてやればあからさまな動揺

「なぁに?照れてるの?」
「うるせぇ!」

そっぽを向いて悪態を吐くが、頭を撫でられるのは甘受している

この少年はきっと、

「で、ここは店なのか?」


―――愛情を知らない


「…知りたい?」

少し、意地悪な質問
撫でていた手を下ろし、少年の顔を覗き込めばうーん…と首を捻っていた

けど、それも一瞬

ぱっと顔を上げた少年の目にあるのは純粋な探究心のみ

「知りたい」

あぁ、イイ目をしている―――

ニィと自然につり上がる口元

「なら、教えましょう」

少年の正面に立ち手を軽く広げる

「ここは願いが叶う店」

これが私と少年の

「いらっしゃい、少年」

出逢い――――




[前項] | [次項]

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -