血ノ穢レ-壱-



目の前に広がるのは、当に和洋折衷な…屋敷。
これが椎娜の店…?

何とも言えないその外観に目を奪われ、動く事が出来ない。

椎娜に会って一日が経った今日。
父上のお陰でやっと一人で椎娜の店に通う許可が下りた。
付いて来ると煩い小十郎を置いて一人で来た椎娜の店。
見慣れない構造に戸惑いながら取っ手の付いた正面の扉に手を伸ばせばオレの手が触れる前に開くそれ。
何事かと思い身構えるがそこから顔を出したのは銀色の髪をしたオレと同い年か少し上ぐらいの女。

「…主様に用?」

主様…?
こてりと首を傾げれば目の前の女もこてりと首を傾げた。

「誰に会いに?」
「椎娜だ」
「主様」

ああ、そうか。
椎娜はこの店の店主だ。
だから、主様か。

「あぁ、椎娜に会いに来た」

はっきりとそう口にすると、なんだかこそばゆい。
なら、と目の前の女がオレを店内に促す。
履物を脱いでついて来いと言われ、大人しく従うものの、廊下に置かれた様々なものに目を奪われ、最終的に女に手をひかれて歩く形に。
何もかも、女の着る着物も俺が見た事のないモノ。
木造の、城にあるものよりも頑丈な階段を登れば、銀髪の女が振り返った。

「主様は、この奥」

すっと指差すのは廊下の奥にある襖。
あそこに、椎娜が。

「なあ、礼を…あれ、」

振り返ると、あの女はいなかった。
足音も、気配も、消えたと言った方がいいだろうか。

「まあ、いいか」

椎娜の店には不思議が溢れてる。
きっとあれもその一つだ。

「椎娜のとこに、行こう」

ぎしぎしと鳴る廊下をしっかりと踏みしめてあの女が指した襖の前に立つ。
この襖の向こうに、椎娜がいる。
そう思うと何だか緊張してきた。
ばくばくと心臓が煩い。

…よし、

「椎娜…?」

襖の向こうにも、やはりオレの知らない世界が広がっていた。
西洋のものだろうか、床より高い位置にある布団。
薄い布の向こうには先日見た黒髪が。
寝ているんだろう、微かに寝息が聞こえる。
起こさないようにそっと奥が透けて見える薄い布の奥へ。
椎娜の寝顔はどこか幼い。
そっと頬にかかった髪を除けてやる。

つい先日逢ったばかりの、椎娜を
どうして、オレは、こんなにも

「愛しいと思うんだろうか」



「―――梵天」



「…っ!…椎娜」

聞かれた?
変な汗が背中を滑り落ちる。
椎娜の顔を覗き込むとまだ覚醒しきっていないのか目がうつろだ。

「いらっしゃい」
「な、…!」

その言葉と共に、引き寄せられる。
咄嗟に目をつぶれば温もりに、包まれた。

「椎娜、おい!」

何度ゆすっても椎娜の目は開かない。
…寝やがった。
椎娜に腕枕され、その温もりに包まれ、俺の瞼も段々と落ちてきた…。
眠気が、襲ってくる。

「もう、しらねーぞ…」

椎娜の温もりと匂いに包まれてオレはそのまま眠りに落ちた。
目が覚めたら目の前に椎娜がいるって…なんか、いいかもな。




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