Night Blindness
03



雅弥の合図で一斉に走り出した五人。
それを見て他のメンバーも動き出した。
作戦内容は既に通達済み。
一瞬出遅れた幸村の事さえ計算にいれ作戦を立てる。
元"ジュミニ"参謀は伊達じゃない。

死角から飛び出した琉那の回し蹴りが男を襲う。
容赦のないそれに男の体は簡単に吹っ飛んだ。
巻き込まれる寸前に女子生徒の腕を引っ張ればとりあえず琉那の後ろを走ってろと言われた幸村の腕の中に勢いよく飛び込んだ。

「な…!?は、破廉恥でござるぅぅぅうう!!!」

叫ぶ幸村を尻目に他のメンバーは自分に与えられた役割を確実にこなしていく。
元親は逃走用等に用意された数台の車を押さえ、季羅と疾風でその周りの男達を蹴散らす。
佐助は野次馬と化した生徒達を教師と共に誘導しつつ、周りを飛ぶ連邦の偵察機の破壊。
政宗と楓は他の場所に潜んでいた奴等の殲滅。
雅弥は女子生徒と幸村の手当て。
誰も此処から生きて祖国に帰さない。
帰すことは許されない。
それが漆原から彼女等に与えられた命令。
拷問を受け、琉那に散々痛め付けられ、自分の知っている事を全て話しても解放されることはない。
いや、別の意味では解放されるか。
だって―――。

「お前が…」
「日本語が上手だな」
「この任務に就く前に覚えた…まさか連合の英雄と対峙する事になるとは思わなかったが」
「ふーん…で?」

たんっと琉那は飛躍した。
無駄のない、滑らかな動きで距離を詰め、数回刀を振るう。
それは男の腕で、又は銃で全て防がれる。
幼稚な遊びのように互いの武器を交わした後、二人はほぼ同時に距離を取った。
さすがは対人戦闘員、なかなかにやる。
ここにきて、初めて琉那が刀を抜いた。
刀身が血のように赤く、紅く、妖しく光るそれを見て男の体がぶるりと震えた。
それに気付かないふりをして何度も何度も琉那の刀と自身の銃とを交わす。
引き金を引くことさえ叶わない攻めに、男はそれを流す事しか出来ない。


――怖イカ。
何が。
――恐ロシイカ。
誰が。
――何故震エル。
違う、この震えは恐れからではない。
――違ウ?何ガ。アレノ何ガ違ウ。アレハ真ニ人カ。
人だろう。彼奴は俺と同じ、人だ。
――人?アレガ?違ウ。アレハ、アレハ。


「化け物」

男のその言葉に続いたのは最早表現の出来ない叫び。

「気でも触れたか」

琉那の刀と銃が触れる度にあの声は大きくなっていく。
あれは男の声か、刀の声か、それとも――

「聞いたか、声を」

男にはもう琉那の声は届かない。
頭に木霊するのはあの声のみ。

「私を化け物とは…よく言う。自分の事を棚にあげておいて」

白目を剥き、泡を吹きながらも男は止まらない。
頭の中に響く声に逆らうかのように無茶苦茶に銃を、隠し持っていたナイフを振り回す。
これが琉那の愛刀"緋焔"が妖刀と呼ばれる所以。
戦闘時における琉那の担当が基本的にプトロンな為に緋焔の力は未知数だ。
緋焔の発する声が人間の脳に、身体にどれ程の影響を与えるかは未だにはっきりしていない。
それでも今まで琉那と殺り合った者の症例はいくつかパターンがある。
ある者は自身を守るために意識を奥底に閉じ込めて寝たきり状態。
ある者は脳死、若しくは四肢が使い物にならなくなる。
なかでも一番多いのは脳が使い物にならなくなるケース。
生きる屍と化す者が圧倒的に多い。
言葉を発する事なくなにも摂取する事なく、ただ毎日涎をなにもかもを垂れ流しぼーっと1日を過ごして衰弱死していく。
いっそのこと殺してくれと頼む事さえ出来ない。
そして更に悲惨なのがこの男のように脳内で処理出来る情報のキャパがオーバーし、緋焔の声が脳を身体を蝕み、やがては脳が破裂する。
べちゃりと琉那がかかった返り血を舐める。
その瞬間その瞳が緋焔のよいに赤く、紅く、妖しく光ったのは見間違いか。
後処理を他のメンバーに任して校舎内に消えていった琉那にそれを聞くことは出来ない。

「…グロいな」

その無惨な死体を見て元親がぼそりと呟いた。

「…うん。でも琉那ちゎんは人気なんだよ。強いって、格好いいって」

ぎゅっと自身の身体を強く、強く抱き締める雅弥。
他のメンバーを泣きそうに顔を歪めていた。

「皆知らないの。リューちゃんがどれだけ傷付いているか、悲しんでいるか」

これもこの時代が、戦争が招いた悲劇。

「リューちゃんが泣いてるのを知ってるのはガジョ達だけ」
「琉那の心がどれだけ傷付いているか知ってるのは」
「私達だけ」

ぽろりとうさ子の目から涙が溢れた。

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