Night Blindness
02



――同時刻 正門前――

がやがやと騒がしい正門前。
集まった野次馬が冷めた目を向けるのは拳銃を向け威嚇する哀れな男。
手にした携帯を仕舞った琉那は校舎の陰でその状況を更に冷めた目で眺めていた。
男が抱えるのは情報科の女子生徒。

「邪魔だ!!道を開けろぉ!!」

女子生徒の頭に銃口を押し付け叫ぶ男。
この光景も最早見慣れたものだ。
戦争が休戦状態とはいえ人々が平和に暮らせるとは限らない。
現実に内戦の終わらない国もある。
紛争は未だに起こっている。
物資供給という形で参戦している日本も、稲葉学園ができてからは人攫いがよく来るようになった。
"有能な軍人を育てる学校"
国外の人々からそう呼ばれているためか、それとも"琉那"がいるためか。
その真意は分からないが、裏にいるのは連邦の連中だ。
金のない人間を雇い生徒を捕らえさせる。
金の欲しい者は此処にいる男のように死ぬ気で攫いに来る。

全ては金のため。

誰かのためにこのような事をする奴は未だかつて見た事がない。

同じ人として生徒たちの見る目は軽蔑の色を孕んでいる。
浴びせる汚い言葉の数々。

金に困り、やりたくない事をやらされる。
家族友人恋人、愛する者を無くすのも全てが、何もかもが戦争のせい。
そう信じ、思いこむ人々が起こすテロも多くなった。

何処か矛盾していて、何処か正しい。そしてこれも矛盾している。

今のこの時代、誰が正しくて誰が間違っているかなど、誰にも分からない。
だが人々の願いは共通だ。
テロ、内戦、紛争、人攫い…。
何もかもこの時代が生み出したモノ。
何時も何処かで人が他人によって殺されるこんな時代なんて早く終わればいい。
誰もが心の底から願う事。

なのに水面下で暗躍する者の所為でそれが叶う事はまだ遠い未来の話―――

そう、たとえば

「早くどけぇ!!!!」
「…………」

叫ぶ男を正門の陰に隠れて見ている連邦軍機密機関 Eigengrau (アイゲングラウ)の暗躍によってその夢は悉く砕かれてゆく。
自分の身長ほどもある長刀を抱きかかえた琉那は男のその更に奥、Eigengrauの連中を睨み付ける。
捕えられた女子生徒は情報科のためあまり武術面には長けていない。
そのため誰かが助けてやらなければいけないのだが…Eigengrauが居なければ琉那達生徒会がいなくても他の生徒でどうにかしただろう。
だが、今回は別。
後ろで控えるEigengrauの男は纏う雰囲気があまりにも違う。
殺気を隠すことなく佇むその姿に委縮して動けずにいる。

「リューちゃん!!」
「…楓」

パタパタと校舎から出てきたのは楓、雅弥、政宗、幸村。
少し足りないと思い見渡せば少し離れた所に疾風、季羅、佐助、元親が待機していた。
流石雅弥、既に動いていたのか。

「琉那ちゃん、やっぱり…」
「あぁ、Eigengrau」

普段とは違う鋭い目をした明らかに"お仕事モード"な雅弥は琉那の返事を聞くと携帯で何やら打ち始めた。

「琉那殿、そのあいげ…なんとやらというのは?」
「Eigengrau…ドイツ語で闇光という意味の連邦軍機密機関だ」
「実際の所は連邦軍の陰のボスかな〜」
「"プトロン"もEigengrauの技術開発機関によって造られたものだ」

ぐにゃりと琉那の顔が歪んだ。

「造られた…試作品」

吐き捨てるかのように付け加えられた"試作品"という言葉。
そのたった一言でその場の空気が凍った。

「…試作品、でござるか」
「つまりまだ完成してねぇってか?」
「そう、アレは進化し続ける…奴等の基となった者が事切れるまで」

誰が、とは聞けなかった。

「ごー!!」

琉那の言葉の過ぐ後に雅弥がそう叫んだのもあったが、それとは別に聞ける雰囲気ではなかった。
琉那の纏う雰囲気が、雅弥の哀しそうな目が、楓の琉那を気遣う様が政宗と幸村にそうさせなかった。

彼等はただ、湧き出る疑問の数々を胸に秘めて雅弥の作戦通りに動くしかなかった。

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