Night Blindness
01



―――数週間後・第4校舎3階生徒会室―――

四人が転校してきて早一ヶ月。
丁度生徒の転校が相次ぐ時期のため、四人はちょっとした事務仕事をこなすため朝から生徒会室に籠っていた。

「それにしても琉那殿、遅すぎではないか?」

幸村はポンポンとリズミカルに承認と彫られた判子を紙に押しつつ佐助に問いかける。

この日、珍しく琉那は働いていて、ある資料を取りに第2校舎まで行っているのだが…。
彼女がここを出て既に二時間は経過している。
確かに第4校舎と第2校舎では距離があるが…。
これは、あまりにも遅すぎる。

「誰かに捕まってるんじゃない?」
「それかboycottだな」

なんて軽口を叩きながらも手は休めない。

「ってかよ、提出期限の近いもん溜めすぎなんだよ…」

出来上がった資料をまとめ、ファイルに閉じれば生徒会長用の席でパソコンで資料整理をしていた雅弥がゆっくりと顔を上げた。

「チカちゃん、文句言うんだったらやらなくていいんだよー?」
「…その甘い誘惑には二度と惑わされねぇ」

二週間前、同じように事務仕事をこなし同じような発言をした元親が見たのは…。

――地獄

その日、琉那は朝から姿が見えず、雅弥以外も体育館で自習練をしていた。
そんな彼等に入った雅弥からの「チカちゃん、仕事やだって☆」というメール

雅弥からのメールを見て喜ぶ疾風の姿を想像するのは容易だ。
実際、「ヤッホーイ!」と叫びながら飛び跳ねて喜び、漆原から渡され実行したことなど一度もない訓練メニューと睨み合いどれを使って懲らしめてやろうかと頭を悩ませていたらしい。

そんな疾風の企みのことは露知らず。
雅弥から止めていいと言われたことにより他の三人の怨めしそうな視線を他所に嬉々として生徒会室を出た元親は第4校舎を出た辺りで季羅と疾風に体育館に連行された。

そこで待っていたのは軍隊出身の漆原が考え出した地獄の訓練メニュー。
血ヘドを吐いても止めることを許されないそれを半日以上休む暇なく(無理矢理)続けた元親はそれ以来何事においても弱音を吐く事はなくなった。

「次はこれの倍だからね☆」

という疾風の悪魔の如き捨て台詞のお陰だろう。
と、季羅は元親がその後黙々と作業に取り組む姿を見てうさ子と話していた。

元親の事があってから雅弥からの甘い誘惑に乗る奴はいなくなったが、やはり話に聞くだけでは危機感は薄いらしく。

「事務仕事っつってもよ、俺等だけですんのはおかしくねぇか?」
「バカか独眼竜!」

生徒会のやり方に意見する政宗。
その身を案じてか、それともこれ以上犠牲者を出さないためか。
元親はガバッと政宗の口を塞ぐ。

それを見て佐助は「なにやってるの…」と呆れ、幸村は首を傾げ、雅弥も幸村と同様に首を傾げた。

「…あぁ!まーくんみたいに疑問をぶつけてくるのは全然大丈夫!」

数秒経ってから合点がいったのかポンと手を叩くと椅子から立ち上がり、政宗と元親に対する対応の違いには触れることなく元親がまとめたファイルを開いた。

「これね、こうやって整理して承認の判子押してもらう前にみんな最低一回は目を通してるんだけど…」

パラパラとページを捲り、例えば…とあるページを指差す。

「連合軍調査報告書…?」
「そー。この資料ね、学校関連の中にちょいちょいこういうの入ってるの」

そこには最近の連合軍の活動がこと細かく書かれていた。
他にも連合軍各国の動きや、連邦軍に関する資料などがあった。

それらは他人には気づかれないよう巧妙に隠されていて…。

「何故ここまで隠すのでござろうか?」
「もちろん、スパイ対策だよ」

雅弥がもう一度ページを捲れば他の四人が何度捲っても同じページは二度と開く事はなかった。
まるで手品のようなそれ。
今まで3回ほどこのような事務仕事をこなしてきたが、そんなもの教えられていない自分達にどうやって隠された報告書等に気付けというのか。

「別に資料整理する度にこうやって報告書がくるわけじゃないんだよ?みんなが転校してきてからは初めてだし、琉那ちゃんには別ルートで報告いってるしね」

教えるタイミング、完璧に見失っちゃった☆
てへぺろと舌をだす雅弥をみんな完璧にスルーし、早く教えろと急かす。
誰か一人ぐらいツッコンでよ…。
と雅弥がうなだれれば

――〜♪

鳴り響く携帯の着信音。

「平成の曲か」
「だって、戦争始まってから休戦中しかそういう活動しないしー?」

ふんふーんとさっき流れた曲を口ずさみながらメールを確認する。

戦争が始まり、軍事一色にはならなかったとはいえそのような娯楽系は慎まれる様になり
テレビは昔の再放送。
音楽も新譜の発表やコンサートなどがなくなった。

そのめか音楽などは戦争が始まる前の、特に平成のものが好まれるようだ。

「琉那ちゃんから」

いつになく真剣な声色で話す雅弥。
それに少しばかり体を強張らせれば雅弥が机から5丁の拳銃を取り出した事によって更に固まった。

これは、ただ事ではない。

「問題発生。武器を持って至急正門前に集合。」




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