Night Blindness
07



「さて、本題だ」

食後のデザートも食べ終わり、漆原 恭哉とうい存在がこの場にいる事に慣れてきた頃
唐突に表れた総理大臣としての顔。

それだけでこの場の空気が張り詰めた。

流石元軍人と言ったらいいのか、漆原が話すだけで威圧感を感じる。
何かが重く体に圧し掛かって来る。
そんな感じだ。

到底振り払う事の出来ないそれを感じつつ漆原を見据えればにやりと至極楽しそうに口元を吊り上げた。

「さすが、私が選んだメンバーだ…良い感を持っている」

自分の目に狂いはなかった。
そう顔が言っている。

「ウルたん、どうしてきたのー?」

漆原の膝の上でパタパタと子供の様に足をばたつかせ、手を絡めて遊びながら見上げれば降って来るのは柔らかな微笑み。
さながら仲の良い親子に見える。

「新しい"チーム"が気になったんだが…いいチームになりそうだ」
「顔合わせて二日しかたってねぇけどな」

軽く嫌味を込めて政宗が言うが、それさえも跳ね除ける笑み。
あぁ、これは何か確信している目だ。

何を感じ取ったのか知らないがこの男は俺達が上手く纏まり、いいチームになると確信してやがる。

「何か質問はないか?」

この学園の事でもいい、生徒会の事でもいい。
そんな視線を投げかければ元親は困ったように首を軽く傾げた。

「大体は琉那に聞いちまったしなぁ…」

思い浮かべるのは今日の生徒会室での事自分達がここにいて何をすべきか何となく諭されたような気もするあの出来事。
あの後出来る限り生徒会の仕事に積極的に励み、鍛練の毎日欠かさずしようと相談し、雅弥にもそれがいいと言われたため、正直今の段階では聞く事はない。

もっと踏み込んだ質問をするなはまだ早い。

「で、では、漆原殿がウルたんと呼ばれている理由をお聞きしたい」

心底気になっているのか、幸村の顔はいつになく真剣だ。
他のメンバーもじっと漆原を見つめる。

「そういえば、俺も知らない」
「え、とせも知らないのー?」

そう言いながら疾風がちらりと視線を楓に向ければふうと吐きだされる溜息。

「つけたの、私じゃないよ〜」

くるくると器用にスプーンを回しながら答えると以外、と疾風が言葉を漏らした。

「琉那ちゃんのも楓じゃないんだよね?」
「リューちゃんとウルたんも、つけたのは私じゃなくてサキさん」

サキさん…?
佐助が漆原に問えば返ってきたのは「俺の秘書だ」と短い返事。

「もういいだろう」

それ以上"サキさん"について説明する気は一切ないようで漆原の一言で強制的に終わってしまった。

蟠(わだかま)りは残るがこの謎の多い人達の事を根掘り葉掘り聞いても素直に話してくれるとは思わない。
それが今時点での俺様のとらえ方。

ま、気長に待つしかない、か。

ちらりと政宗と元親に視線をやれば諦めたかのような溜息が返ってきた。

この人達を探るにはまだ時間と情報が足りない。

「もうないか?」

漆原の問いに頷けば
なら、と疾風を下ろし立ち上がった。

「ウルたん、もう帰るの?」
「あぁ、緊急の会議が入った」

疾風の目の前で自身の携帯を揺らせば恨めしそうにそれを見つめる。
ぷくりと頬をリスのように膨らませ、漆原を見上げればガシガシと乱暴に撫でられる頭。

「久し振りにウルたんと会えたのに―」
「遠距離恋愛中のcoupleか、アンタらは」

政宗の突っ込みに苦笑を返せば何故か労いの表情が返ってきた。
二日で"この疾風"は大体理解したという事か…まあ、分かり易いからな、この子は。

「近い内にまた来る」

そう言ってやれば小指を突き出して指切りを強請って来る。
ああ、本当に子供のようだ。

小指を絡めれば腕が千切れるんじゃと思う勢いで上下に振られる。

「絶対に約束!!」
「あぁ、勿論だ」

そのまま手を繋いで玄関の方へ歩き出し、他のメンバーもそれに続く。



玄関先で身支度を整える漆原を眺めていればそうだ、と呟き政宗達の所へと近付いてきた。

「今は分からない事だらけだろうが、それは時が来れば自然と分かるようになってくる」

一人ひとりの頭を撫で、確認するように顔を覗き込む。

「だから今は難しく考えず、色々な事を素直に受け入れ、吸収しろ」

諭すように言い聞かせる漆原はどこもでも彼等を子供扱いする。
が、これ以上勘ぐるなとも聞こえる。

「近いうちにそうしていて良かったと思う日がきっと来るだろう」

最後にそう言うと「また来る」と言い、もう一度、今度は全員の頭を撫でた後琉那と共に寮から出ていった。

「釘刺されたな、猿」
「佐助が難しく色んな事考えてるのがばれちゃったんだね〜」

ひょこっと手を後ろで組み、小首を傾げつつ佐助を見上げる楓。

その動作や姿は可愛らしいのに、浮かべる笑みからはその可愛らしさが感じられない。

「別にそれがダメだとは言わないけどウルたんも言ってたでしょ?時が来れば分かるって、だからその時を待ってる方がよっぽど利口だと思うよ?…政宗も、元親も」
「…」
「それだけだから。じゃ、おやすみ!また明日ね〜」

ニッコリといつも通り微笑んだ楓はそのまま自分の部屋に戻る為、階段を上がって行ってしまった。

「あーあ、三人共楓にも釘刺されちゃったね」
「…雅弥ちゃん」

ひょっこりと柱の陰から現れた雅弥は季羅に食後に食べた人参ゼリーを貰っている幸村を見ながら三人の方へと歩みを進める。

「ここでは経験値〇なんだから、私達先輩の忠告とかアドバイスは聞いておいた方がいいよ」
「…経験値だぁ?」

元親が訝しげに問えば、雅弥は妖しく微笑み内緒話でもするかのような声でそっと、呟いた。




「―――――戦場の、ね?」

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