Night Blindness
06



「うっめぇ!!」

日本のトップと食事を共にするという、かつてない程の緊張感に包まれた転校生メンバー。
そんな中、唐突に叫んだのは元親。

それは季羅の料理に対する純粋な感想。

がつがつと食卓に並べられた料理を胃袋の中へ詰め込んでいく。

「ちかちゃんがっつき過ぎ〜」

きゃっきゃと楓が笑えば元親は一度手を止め再びがっつきだした。
…そんなに美味しいのか。

「Hey,西海の鬼はmannerもロクに出来ねぇのか」
「うっせぇ、胃袋ん中入りゃ一緒なんだよ」
「口に物入れてしゃべんじゃねぇよ!…ま、うめぇからしょーがねぇんだけどよ」

最低限のマナーは必要だが、別にそれ以上は求めていない。
と、漆原が言えば元親は更に食べるスピードを上げた。
…そんなに美味しいのか。

「そんなに美味しいんだから二人共がっついてるんでしょ。早く食べなさいよ猿」
「…飛までちゃんと言ってよ、うさ子ちゃん。ってか人の心勝手に読まないで」
「顔に出てたのよ。とせくんが仲間の料理に毒入れるなんてそんな事する訳ないでしょ。変に疑ってないで素直に食べなさい」
「うさ子ちゃんって、母親みたいだよね」
「なんですって!」
「うさ子、耳痛い。当たってる当たってる」

佐助は疑り深過ぎる。
幸村がそうこぼしたのが癪だったのか、佐助はゆっくりとステーキにフォークを入れた。

…別に、信用してない訳じゃない。
ただ、日が浅すぎるんだ。
大統領が転校二日目で見に来るなんておかしいでしょ、普通。
竜の旦那が普通に食べてるから、何にもないとは思うけどさ…。

心の中で文句を垂れながら切り取ったステーキを口に含み、一言。

「…うまい」

元親を筆頭に他のメンバーも次々と感想を述べ、当たり前でしょ?と何故かうさ子が踏ん反り返っている。
そんなうさ子の頭を季羅がよしよしと撫でてやっているが、この場合自分の頭を撫でているんじゃ…というツッコミはなしだ。

「そうだろう佐助!お主の作るモノより美味いかも知れんな」
「失礼な。みんな違ってみんな良いなんだよ」
「HA!負け惜しみに聞こえるぜ」
「うっさいよ」

なら、佐助のも食べていみたい。

そんな意外な発言をしたのは我らが生徒会長様。
口元を拭きながら琉那が佐助を見れば、彼は何故か眉を寄せた。

「佐助、そう警戒しなくても琉那ちゃんはただ興味があるだけだから」
「…雅弥ちゃん、別に俺は警戒してるとかじゃなくて」
「ただの興味本位だ。美味い物が作れると聞いたら誰でも食べてみたくなるだろ?」
「…機会があればね」
「「やったー!!」」

と、何故かハイタッチをするのは楓と疾風。
そんな彼等を見て佐助は一人、小さく頷いた。

琉那ちゃんの言葉は、裏表がないと分かってる分、何故か心に届き易い。

そんな、琉那に対する認識の変化とともに。



「おかわりでござる!」
「旦那、それ何回目…」

先ほどまでの緊張が嘘のように和みだす面々。
あぁ、いい雰囲気だ、と漆原は口元を緩めた。

「あ、ゆっきーだけずるい!俺もおかわり」
「疾風、そんなに急いで食べるな。せっかくの季羅の料理だ、もっと味わえ」
「でもウルたん!ゆっきーに全部食べられる!」
「餓鬼かアンタは」

俺と疾風との会話に政宗が加わるなど、生徒会メンバーと転校生メンバーは案外すぐに打ち解けたようだ。
…まぁそれは疾風のキャラもあるかもしれないがな…。

まだ打ち解けていないのは琉那、か。
まぁそれは仕方がない。
打ち解けていないというか…分からないのだろう。
裏表がなく表情の変化も乏しい、そんな琉那の事が。
この中で一番子供なのは何気に琉那だ。

「ウルたん、何か飲み物は〜?」
「あぁ、コーヒーをもらおう」
「はーい!」

まだ二日目、俺の前で疾風や楓とふざけて笑っている子供達はまだ世界の惨状を、"琉那"を知らない。

それでもいい、これから知っていけばいいのだから。
この世界の事。
この学園…生徒会の事。
自分達が為すべき事。
そして、琉那の事。
これから起きるであろう非現実的な事、全て。

時間はないが、彼等はこれからたくさんの経験が出来る。


…死と隣り合わせの世界の中で。

------------------





back
- ナノ -