Night Blindness
04



「はいはいーい!じゃあお仕事お仕事〜!!」

パンパンと手を叩いて楓が立ち上がった。

「では生徒会見習いの皆さん!左手をご覧下さい!」
「いや、何だよ見習いって」
「…面倒臭くなったんじゃねぇの?」
「お、チカちゃんご名答!!」

イエーイ!と何故かハイテンションな疾風は部屋の隅に置かれたルーレット盤もどきの方へと走って行く。

元親が頭を抱えているが習うより慣れろ、と言うやつだ。

「で、何するの?」
「転校先を決めるんだよー」

と、ニコニコと微笑みながら戻って来た疾風は琉那の手を引き、ダーツの矢を持たせた
持たされた方の琉那は疾風と対照的に物凄く嫌そうな顔だ…そんなに仕事が面倒臭いのか。

「決めるって…ルーレットでかよ…」

半ば呆れた感じで、元親は足を組み変えつつコーヒーを飲む。
顔に似合わず彼の飲むコーヒーはミルクたっぷりだ。

「面倒臭がりなリューちゃんの提案なんだよ〜。はいガジョ、ルーレットスタート!!」

楓の言葉を合図にガジョが各地方の名前が書かれたルーレットの板を物凄い勢いで回しだした。
それを見て「これはこれで面倒なんだよなー…」と呟きながらダーツの矢を投げる。

そしてそれは的に向かって一直線に飛び、とすっと良い音を立てて刺さった。

「さて、何処に刺さったのかなー…あ、北海道!」

と、矢の刺さった場所をガジョが読み上げると雅弥がそれをパソコンに打ち込み、琉那が『北海道』と書かれた箱に正人の資料を入れた。


どうやらこれが今回の仕事のようだ。

「じゃあこれをグループに分かれてやってねー」

疾風が適当に決めたペアは
政宗と季羅
佐助と楓
幸村と疾風
元親と琉那

とりあえず視界に入った順というあまりにも適当な決め方だが、まあそれなりに仲良くやっているようだ。

…多分。




百人近くいる生徒の転校先を決めるのに然程時間はかからなかった。

ダーツの矢が刺さった所を記入していくという転校先を決めるにしてはあまりにも単純な作業。
支部にいた頃とは大違いだ。

どうすればこの生徒は足りない部分が伸びるのか、そのためにはどの支部に飛ばすべきなのか…。
今までそんな事を考えながら生徒の転校先を考えてきたのが一気に馬鹿らしくなった。

本部の生徒会の仕事はあまりにも雑過ぎる。
どうりで各支部の特色に合わない奴等が飛ばされてくる訳だ。

支部に仕事を押し付けている、そんな気がする。

と、元親はルーレット盤を全力で回しながらそんな事を思った。

実際、目の前にいる本部生徒会長はダルそうにダーツの矢を投げている。

琉那は本当に生徒会長に値する人間なのか…?


と、元親のその疑問は誰もが思う疑問であるのと同時に


酷く間違った疑問でもある事に彼は気付いていない。



「雅弥、この後の授業何?」
「んー…grammar!」
「…ならいいか。どっか体育館開けといて」
「はーい」

目の前で繰り広げられた会話はかなり堂々としたサボリ宣言。

…にしても

「アンタ、体育館で一体何すんだ?」
「ん?鍛練」

「あ?」

とすっと、矢が刺さった所を読み上げるのも忘れて元親は琉那を凝視する。
それを一瞥した琉那があんぐりと開けられたままの元親の口に矢を投げる素振りをすれば焦ったように「九州!」と叫んだ。

「前も言ったが、私の本業は戦闘だ。こうした事務作業はどうも性に合わない」
「で、授業サボって鍛練ってか」
「…元親、お前何か勘違いしているだろ」
「…あ?」

「本部の生徒会役員は全員戦闘が本職、煩わしいだけの事務作業や授業なんて休戦中にしかしないただの暇つぶしと一緒だ…っと、雅弥、四国」

未だに呆けてる元親の代わりに琉那が本日最後の転校先を読み上げる。

「この学園が建てられた当初の目的はプトロン討伐と連合軍勝利への貢献。特に生徒会なんて肩書きだけで実際は軍に所属しているのとなんら変わりはない。こんな暇過ぎる事務仕事なんて…ただ煩わしいだけ。鍛練の時間を減らしてまでするような事じゃない。それに、…そんなに仲良しごっこがしたいなら支部に戻れば?」
「…っは、なっげぇ台詞しゃべったと思ったら…そんなことかよ、」
「そんな事言いながらホントは気付いてるんだろ?」
「…何に」
「自分の考えがどれくらい餓鬼だったか」
「…」
「ここで生温い仲良しごっこをするのはただ現実から逃げてるだけ、そろそろ自覚したらどうだ?…今は戦争中だ」

―――バタン

そう冷たく言い放った琉那は愛刀片手に生徒会室から出て行った。
残されたメンバーの間には微妙な空気が漂う。

…なんというか。

「相変わらずリューちゃんの言う事は支離滅裂だねー」
「しょうがないよガジョ、リューちゃん長い台詞に慣れてないんだから〜」

「…色々と疑問はあるんだけど、なんでこの二人の会話はこんなにも和むの」
「それはね、佐助。この二人が癒し系だからだよ」
「レニちゃんは若干自虐ネタに走っちゃってるよ」
「走ってないヨ!私も癒し系キャラだヨ!」
「目が泳いでんぞレニ…ってそうじゃなくってよ、元親と琉那の会話だろ」

「政宗が止めてくれなかったら俺、この状況についていけなかった「レニ殿!菓子がなくなりましたぞ!!」
「ちょ、静かだと思ってたらお菓子食べてたの?!」

「…もうやだこいつ等」
「諦めろ」
「いやいや、とせが一番扱いにくいけどな…」
「?!」
「おいおい、冗談に決まってんだろ」

「…何だかんだで鬼の旦那が一番脱線してるよね」
「幸村をはかいじめにしながら言われてもな」

彼等は、自分達でカオスな空気を作り上げている事に気付いてるのだろうか…。
何度軌道修正しても逸れる話。

まるでそれに触れる事を拒むかのように。

「本来、転校関係の仕事は支部の仕事なの」

唯一そんなことに拘らないうさ子。
季羅の頭上でコーヒーを飲む彼女はさながら陰のボスのような雰囲気を醸し出している。

うさ子の唐突な一言で、皆静まった。

「だけど、休戦中の仕事って事でとりあえず転校先を決める事だけ与えられた。だからそれは琉那にとってはただの"暇つぶし"。そして彼女の…私達の本業は"人殺し"。貴方達もここに来たのだから、甘い考えを捨てて現実を見なさい、今は休戦とはいえ戦争中なんだから。って、琉那はそう言いたかったのよ」
「なんでうさ子ちゃんが一番大人なの」
「それはうさ子がうさ子だからだ」
「やだとせくんったら♪」
「あんたらちょっと黙ってろ…」

政宗の制止は意味をなさず、またも二人の世界に浸ってしまった季羅とうさ子。
本日二回目の部屋の端でのイチャつきを誰も視界に入れる事無く話は進む。

「まあ、ここに来て二日目の人達に言う事じゃないんだけどね…」

雅弥の眉がが申し訳なさそうに下がった。

「でも遅かれ早かれ、言おうと思ってたんだよねー…」

先こされちゃったと雅弥は笑うが、誰も言葉を返さない。


私達の本業は"人殺し"


さっきのうさ子の言葉が政宗達四人の頭の中で何度も繰り返し再生される。




彼等がそうなるのは、そう遠くない未来。



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