Night Blindness 03 「強さがモノを言うという事でござろうか…?」 「そういうのとはちょっと違うかな〜?」 眉間にしわを寄せながら幸村がそう問えば、少し難しい顔をした楓が答えた。 結論は一つだが考え方は人それぞれ 「それでも…っ!」 「はいはい旦那、ちょっと落ち着こうねー?」 感じ方も人それぞれだ 楓に掴みかかりそうな勢いで身を乗り出した幸村を落ち着かせながら佐助は少し困った顔をした。 さて、これからどうしたものか…。 幸村の、強く握りしめられたその拳は怒りのためか爪が食い込み少し皮膚が裂けそうになっていた。 「強さがモノをいうというより…強くなくてはいけないと言った方が良いな」 季羅の頭上でうさ子が両耳でマグカップを持ちココアを飲んでいるがもう皆無視だ。 というか、それどころではない空気が漂ってきた。 幸村が落ち付くのを待って、雅弥がゆっくりと口を開く 「稲葉学園は対プトロンの為、新しく"ジュミニ"のようなチームを作る為に建てられたの」 彼女が仕事の時にだけ掛ける眼鏡がきらりと光った。 「だから強くないといけないの。この国を…皆を守る為に、この戦争を終わらすために…」 誰も雅弥の言っている事が大げさだと、そんな事は思わないし言わない。頭の中にそんな考えがないのだ。 琉那がプトロンを倒したあの日から連邦軍の最終兵器が最強ではないと分かったあの日から連合軍の人々は勝利を確信していると言っても過言ではない 彼等もそんな人々の一部である可能性だってある。 が、その勝利を手にする為にはプトロンを倒せるだけの十分な戦力がない 琉那一人では足りないのだ。 だからこの稲葉学園がある。 再び平和をもたらすためにこの戦争を一刻も早く終わらせるために… そのために、武術を習い、強くなければならない…分かっている、分かっているがあまり理解できないのも事実だ。 いや、実際に戦場で人を殺めた事のない彼等に分かれと言う方が無理なのかもしれないが… 「レニちゃんみたいに後方支援担当な人間もそれなりに戦えないと駄目なの。戦場は何が起こるか分からないから、いつも私達が守れるとは限らないの」 「つまり、その正人って奴は頭はともかく強さの基準に達してなかったってぇ事か?」 「大正解♪」 イエーイ!と疾風が手を叩くが、正解を出した元親はあまり嬉しくなさそうだ。 そのような理由で転校になった正人を哀れんでいるのか、それとも彼の逆で 頭の良くない自分が此処に居ていいのかという不安か… 彼女達の話を聞く限り、本部に入れる人間の条件は文武両道な事が必須なようだ 「例外はいるがな」 琉那のその一言に元親と幸村が面白いくらいに反応した。 そんなにも面白かったのか、佐助がフルフルと肩を震わせているが、二人は気付いていないようだ 「そ、それはどういう事でござろうか…」 「生徒会に関しては総理大臣である漆原が全てを決めるからな」 「ウルたんは強い人が大好きだもんねー?」 ウ ル た ん ピシリ、とほぼ同時に四人が固まった 今、楓は現総理大臣を何て呼んだ…? 困惑の表情を浮かべる四人の事は気にも留めず琉那は話を進める いずれ分かるよ と、楓の口が動いたが四人がそれを見ていたかは分からない 「たとえ学力が低くても漆原が気に入れば、生徒会長になれるし、本部の生徒会にも入れる…。まぁ、流石に本部の生徒会は実力重視だけどね」 「――で、結局その正人って子、どうするの」 どうせ、総理大臣について聞いてもこれ以上の情報を出す気はないだろうし、何より時間の無駄… 楓ちゃんがいずれ分かるって言ってるんだからまぁ、その内分かるでしょ 今はそれより、優先する事がある…先ずは、生徒会の仕事をやらないとねー… 全く、世話の焼ける人達だよ…軌道修正するこっちの身にもなって欲しいんだけど… 内心で毒を吐きながら、佐助は溜息を吐いた 「さっすがオカン!」 「雅弥ちゃん。オカン違う」 「止めろてめー等、オカン談議でも始める気か」 オカン談議…と、笑う雅弥を横目に二人を止めに入った政宗もまた溜息を吐いた 本部に来て二日目でいきなり非現実的な話をするのは止めてほしいと、頭の片隅でそんな事を考えてみる。 確かに本部に行きたいとは願ったし、実際に来れて嬉しい。 俺自身の力を戦場で試してみたいという願いは…酷く馬鹿げたものだとこの二日でようやく理解した。 今のこの現状を、世界で起こっている事をようやく理解したと言った方が良いだろうか… 「おい、独眼竜。…そう気を落とすなよ」 「わーってるよ…」 「俺等四人、考えてる事は多分、同じだ」 「HA!…世界の現状を漸く理解したってか…」 「情けねぇよなぁ…支部で生徒会長してたってのによぉ…」 「…支部にいたからじゃないの?」 「Ah?」 「中途半端に情報が入ってきたからこそ受け入れる事が出来なかったんだよ…非現実的だからこそ、」 「頭じゃ理解できても、それを受け入れ、現実に目を向ける事が出来なかった出来なかった…てか」 どっちにしろ、情けない事に変わりは無い。 戦時中でも、日本は平和だった…平和ボケ、とでも言うのだろうか 今からするらしい仕事の準備をしている琉那達を見ていると戦争なんてないように思える 戦場に赴き人を殺しているような奴らには到底…見えない。見る事が出来ない。 彼等が意図的にしているのか、俺達の平和ボケした頭がそうさせているのか…まぁ、どっちにしろそれを如何こうする気は微塵もねぇがな… それが現実である事は変わる事のない事実だしな 「ま、取り敢えず。習うより慣れろってね」 「どうせ、近い内に俺等もアイツ等の仲間入りするんだしな」 「やっぱ頭で如何こう考えるのは性に合わぇしな!」 「…単細胞が」 「あぁん?!」 「はいはい、喧嘩しないのー」 支部にいた時には仕事も、訓練も全て遊び半分だった 心の何処かでは自分は関係ないと、戦場に行く事は無いだろうと思っていた …それが本部に来て何かが変わった 彼女達と出会ったからだろうか ------------------ back |