Night Blindness
02



「はい、これ」

もう既に定位置なのか、昨日と同じ場所に腰掛けた生徒会メンバーに雅弥が何かの資料を配っていく。

「雅弥ちゃん…コレ何?」

一通り目を通した佐助が、雅弥に問う
他の四人もその資料に書いてある事があまり理解できないのか、首を傾げている。

そこに書かれているのは本部の一部の生徒の顔写真、名前、成績、最近身の回りで起こった事件等々詳しい個人情報だ。

「転校生リストだよー」

他の作業に入ってしまった雅弥の代わりに、疾風が答える。
その手にはミルクたっぷりのコーヒーが入ったコップが握られていて、熱いのか息を吹きかけながらちょびちょびと飲んでいく。

そんな疾風の様子を眺めていると、楓が四人彼等ら好みな飲み物を配って行った。

…調査済みってヤツ?

未だ警戒心の抜けない佐助がそんな事を考えるが手元にある資料を見る限りそれも当たり前かと考え半ば諦めたように紅茶を口にする

美味しいと、佐助の口から洩れた感嘆の声を聞き楓は嬉しそうに微笑んだ

「俺等が生徒会長だった頃に自分の支部に合っていない生徒を他の支部に転校させる書類やら何やらを作っていたが…同じようなもんか?」

個人情報は此処まで載せなかったけどな

と、コーヒーを飲みながら政宗が言う。
猫舌なのか、飲むスピードは疾風と然程変わらない。

「それとは少し違うな」

さっきまで資料には目を通さず、四人の反応を見ていた琉那が口を開いた。
四人が琉那の方を見ると、彼女は雅弥の持つファイルから適当な資料を取り出し彼等に見せた。

生徒会室に居る全員がその資料に注目する

「藤田正人、本部の高校一年、十今日は京都12ブロック、家から近いという理由で初等部に入学成績は上の下、中等部も同じような感じ、けど、後頭部に上がると同時に成績は中の下まで下がり…転校」

琉那はすらすらと資料を読み上げていく

感情の一切籠っていない、あの、無機質な声で

リューちゃんは仕事の時の声がすごく無機質なんだよ〜

と、誰も聞いていないが、実際は結構な疑問に楓が答える

成程、と納得すると同時に新たな疑問が生まれた
それは藤田正人が転校する理由

本部の生徒は各支部の成績が上の下の人間の集まりだから、正人が転校しても上の中あたりにるため転校する理由にはならない
定期的に下の下から下の中の人間を転校させるのだが…彼はその対象ではない


つまり、転校の理由は成績ではないという事


…まぁ、幸村や元親の成績は支部基準では下の方なのだが…彼等の場合は人望と実力がある為例外扱いだ

「確かにこの成績は申し分ないが…問題はコイツの戦力」

「学園内で起きた事件とか問題は支部の本部も一応責任持って処理するから大丈夫なんだけど…」

雅弥は困ったように微笑んだ

「プライベートではそうはいかない」

琉那の一言がやけに部屋に響いく

ココアを一口飲むと、再び琉那は口を開いた
その目はどこか冷めている

「学園外で起きた事は全て自己責任。此処稲葉学園は対プトロンの為に建てられたからこそ、自分の身ぐらい自分で守れないと判断され、自らの足りない部分を補うためにそれに相応しい支部に飛ばされる事になる。それが本部の決まり」


それが此処の決まり

守られていては駄目、守らないといけないの


琉那のその言葉はきっと本心からだろう
冷たさはあっても何処か優しい声色でしっかりと政宗達四人の目を見て彼女は話す

初めて、生徒会長としての"梧 琉那"を見たような、そんな気がする


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意義は色々な人の存在理由の話








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