2018-11-3 Sat 21:17
「大人1枚、高校生1枚」
平日の真昼間、よく通る声で左馬刻さんはそう言い放った。券売所のおばさんの訝しげな視線をものともせず、左馬刻さんは手に持つ私の財布から学生証を取り出す。普通の学生ならば学校に行っている時間帯だ。それなのに私達は動物園に来ている。
動物園デートという、ド定番なことを1度でもいいからしてみたかった。左馬刻さんは遊園地だとか動物園だとか、人が多い所はとにかく嫌いそうだから特に期待もせずぼそりと提案すれば数日後には「動物園、行くんだろ。用意しろ」と言われるその行動力。動物園という言葉が思ってた以上に似合わなくで、ちょっと笑った。
さすがにいつものアロハは悪目立ちすると思い、シンプルなジャケットを着てもらったのにワックスで髪を後ろに流しているから逆効果だ。厳つさと格好良さが数倍増しで、正直まだ慣れない。姿見で全身を確認した後、洗面所に向かったのを止めればよかった。この格好良さを知るのは私だけでいいと思うしこれ以上ファンが増えられても困る。いや、ただのペットである私がとやかく言うことではないのだけれど、ペットにはペットなりに思うところがある。絶対に口にはしないけれど。ほら、だってこの場にいる女の人はみんな左馬刻に釘付けだ。厳ついおにーさんが大人しく園内の説明を受けているのだから、もう、こう、ギャップがやばい。ぎゅっと胸の奥を掴まれながら左馬刻さんからパンフレットを受け取る。代わりに財布を仕舞った鞄を攫われたのでまた胸の奥が音を立てた。
「折角怪しまれないように大人っぽい格好してきたのに、左馬刻が高校生って言うから怪しまれたじゃないですか」
「あ?別にいいだろ。好きに噂させとけや」
「援交だって、捕まっちゃいますよ?」
「俺が捕まる前提かよ」
なんて、ふっと笑うから私はもうノックアウト。さらには普段滅多に手を繋がないのに、するりと指を絡められて思わず身体に力が入った。はくはくと陸に上げられた魚のように口が動く。
「ンだよ。デート、なんだろ?」
「でも、」
「折角いつもと違う格好してんだ、違う事してみんのもいいだろ?なあ、撫香チャン」
そのままちゅっと絡めた指にキスを落とされればもう降参するしかない。観念したようにマップを広げれば満足気に口角が釣り上がった。


この後普通にはしゃぐ撫香を見て「そういえば、17のガキだったな……」って思うさまときさま
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テーマ「人外ファンタジー」
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