02




「エステルっ!!」


咄嗟に肩を抱き、彼女を抱き寄せる。

エステルが今までいた場所には、複数の矢と弾丸。

矢には、毒が塗られている。


「……命を狙われる心当たりは?」

「……」

「なるほど。今回の“お願い”と関係あるわけだ」

「ごめんなさい」

「走るぞ」


エステルを抱き寄せたまま走り出す。


「ユーリ?」

「取り敢えず、隠れられる場所まで行くぞ」

「は、はい」


背後から飛んでくるのは、エステルを狙う様々な飛び道具。

そして、強く重い殺意。

思わず出てしまいそうになる舌打ち。

今は少しでも安全な場所に向かうのが、最優先だ。

二人は建物の陰に身を寄せた。


「で、アイツらは何者なんだ?」

「それは……」


必死に言葉を選ぶエステル。

どうやら、自分とは違う世界の話らしい。

知りたくないわけではないが、エステルを困らせたくない。

彼女の頭にそっと手を置いた。


「ユーリ?」

「そんな顔すんな。一週間はエステルの“婚約者”だから、守ってやる」


エステルは、嬉しさと悲しみを織り交ぜた表情を見せた。

彼女をその場に残して、通りへと出る。

ユーリが姿を見せると、一瞬浮かんだ殺気が消えた。

無関係な人物を闇雲に狙う真似は、しないようだ。

人数は十人程度。

全員が同じように顔を隠して、服を揃えていた。

どこかで見たような気がしたのは、“赤眼”達と似ていたからだろうか。


「そんなに数揃えて女の子一人を苛めるのは、ちょっと酷くないか?」

「お前何者だ」

「関係ないヤツは口を出すな」

「命の保障はないぜ?」

「何者……か。悪ぃが、関係あんだよ」


彼らの目が(実際には見えていないから、雰囲気が)その答えを促した。

深呼吸一つ、彼らが望む答えを叫ぶ。


「エステリーゼの婚約者だよっ!」


鞘を投げ捨て、剣を構えた。

それをきっかけに空気が動き出した。

走って来る数人。

彼らの背後から飛んで来る弓矢。

一人で相手にするのは、少しキツい。

避けながら、隙を狙う。

戦いに慣れたその動き。

正確に言うならば、戦いというより、“人を殺すこと”に慣れた、だ。


「んだよっ!」


頭で考えていても、進まない。

ユーリはその場の流れに身を任せる事にした。

エステルはこちらを見ているだろう。

ならば、殺すことは控えた方がいい。





半時間後、奇跡的にかすり傷程度で、その戦闘は終わった。

取り敢えず、この辺りにいる“彼ら”を倒したはずだ。


「ユーリっ!」


飛び込んできたエステルを抱き止める。

エステルはギュッとユーリの服を握った。


「エステル……?」


ユーリの胸に顔を埋めたまま、動かない。

微かに震え続けるエステルが心配になる。


「……リ」

「ん?」

「ユーリが、無事で良かったです……」

「当たり前だろ? オレを誰だと思って――」

「ユーリ!」


涙を浮かべたエステルの瞳。

宝石のような眩しすぎる碧に言葉が消えた。


「怖かったです。わたしのせいで、ユーリにもしものことがあったら……」

「エステルはさ、オレならエステルを守れる、と思って頼んだんだろ?」


近い距離で頷く彼女。


「だったら、最後まで信じろよ。オレは自分の命と引き換えに誰かを守るような“イイヤツ”じゃないんだぜ?」

「そんなの“良い人”じゃありません! ……最初にちゃんと説明しなくて、ごめんなさい。ユーリにこんなことさせて、ごめんなさい」


一つずつ謝り始めるエステル。

少しずつ小さくなっていく声。

ぽんぽんと頭を叩く。

今にも涙がこぼれそうな瞳が自分を映すと、安心させるように笑った。


「じゃあさ、“一週間の婚約者”が終わったら、何かご馳走してくれよ」

「……はい!」


ユーリの意図を理解したのか、エステルは満面の笑みで頷いた。






instant fiance





E N D



2009/02/28
移動 2010/12/13



(夢で見たものを参考に書いた作品だったり)


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