02
「本日はどのようなご用件でこちらに? お弁当は温めますか?」
「……」
彼女は何を言っているんだ?
よく理解出来ず、アスベルにしては珍しい頼りない笑みを見せた。
「禁煙席ですか? 喫煙席ですか?」
「……故障したジョセ……テレビを直してほしくて……」
「ちっ」
「舌打ち!?」
「いーえ。何でもありません。こちらへどうぞ〜」
クルリと一度回転した彼女に案内されるままに歩く。
いつの間にか、ソフィはいなくなっていた。
今まで特に触れていなかったが、アスベルはずっとジョセフィーヌを背負っていた。
「こちらに手続きをお願いします」
差し出された紙に目を通す。
ツッコミ所満載な紙を、アスベルは無言で投げ捨てた。
「お客様、ノリ最悪ですね」
「この店のノリが最悪だ」
バチバチと火花を散らすアスベルとパスカル。
ケンカに発展するかと思われたが、次の瞬間には握手を交わしていた。
「こちらのテレビの修理ですね」
「お願いします」
「では、お預かりします。お名前と連絡先をこちらに」
パスカルはジョセフィーヌを連れて、奥へ入った。
その間に、アスベルは渡された紙に名前と連絡先を記入する。
それを彼女に渡したところで、目的は達成した。
なので、帰ろうとしたのだが……。
「お客様、こちらのテレビはいかがですか?」
買い物に来たわけではないのに、パスカルは薦めてきた。
「え、あ、いや……」
「今が買い時ですよ。まず」
詳しく説明を始めてしまった。
いかに素晴らしいかをミュージカル風に伝えるパスカルだが、アスベルはさっぱり分からなかった。
「つまり、今しかないわけですよ、坊っちゃん」
「……」
「特別に2割引きとかどうです?」
小声で提案されても困る。
何とか断ろうとするのだが、この店員には届かない。
結局、口車に乗せられて買ってしまった。
「ありがとうございました」
満足げに笑うパスカルとは正反対に、寂しくなった財布にため息をこぼした。
知らないうちにソフィと合流し、二人で帰る。
途中でソフィのおやつを買うことも忘れない。
無事に何も起きずに家に着いた。
それが普通なのだが、アスベルにしてみれば、喜ぶべきこと。
そして、帰りはマリクに出会わなかった。
手洗いとうがいを済ませ、ソフィはおやつタイム。
アスベルは段ボールを開けた。
軽々とテレビを持ち運びする彼を、ソフィはちょこっと尊敬しているらしい。
ジョナサンより大きなこのテレビには、“ずみやん”と名付けた。
早速なので、試しに繋げてみた。
そして、この前借りて来たDVDを入れようとしたら、拒絶反応か何かでテレビが破壊した。
静かに壊れたので、隣近所の迷惑にはならなかっただろう。
「……」
「ずみやん、短命だったね」
ソーダ味の棒アイスを食べながら、あっさり言い放つソフィ。
短命というか、それ以前の問題だ。
「買ってすぐだ。保証書を持って」
「はい」
有効期限→15秒。
「何でやねん!」
「その角度じゃ、イマイチ」
ソフィはアスベルの隣に立ち、手本だと言うように、手を動かした。
そんなことはどうでもいい。
こんな時に頼れるのは、弟しかいない。
アスベルは、ヒューバートの携帯へ電話をかけた。
……着信拒否されていた。
「……ヒューバートの反抗期は長いな」
遠い目で、アスベルは呟いた。
泣いているように見えるのは、気のせいだ。
「それなら、シェリアにかければ?」
「……シェリア、最近、機嫌悪いし」
「アスベルがヒューバートにばかり構うから」
「?」
「わからないならいい。だけど、いつか殺されても知らない」
物騒なことを真顔で告げ、ソフィはアイスを食べ終わった。
わずかに怯えるアスベルに、彼女は提案する。
「親友には頼らないの?」
「アイツ、素なのかわざとなのかわからないけど、真顔でボケるし黒くなるからな……」
「人のこと言えないと思う」
「?」
ヒューバートが絡むと性格変わるクセに。
とソフィは心の中で呟いた。
アスベルは無自覚だろうが。
「やっぱり、今頼れるのは、ジョナサンしかいないな」
「……そうだね」
新しいテレビ・ずみやんは、その日のうちに店に返した。
E N D
2009/09/24
移動 2011/02/07