ミュウの呪い?*後編




「ご主人様、これは“チーグルの呪い”ですの!」

「チーグルの呪い……?」


ミュウが中にいる見た目ジェイドは、落ち込んだように耳をぺたっと伏せた犬を彷彿させた。


「……何か、大佐のイメージが変わるよねー」

「ええ。(不謹慎だけど、何か可愛いわ)」

「是非、ピオニー陛下に会わせたくなりますわね」

「ナタリア、そんな嫌がらせは止めてください」


ため息をつくミュウ(の姿をしたジェイド)。

ナタリアは不思議そうに首を傾げた。

本人に悪意はまったくない。


「で、ジェイド……じゃないや、ミュウ。それは何なんだよ」

「ジェイドさんは、ボクのこと苛めたですの! だから、チーグルの呪いがかけられたんですの!」


力いっぱい言われてもよく分からない。


「苛めたって、具体的に……」

「お腹を切られそうになったですの!」

「……」

「ザクッてされたですの!」

「……その表現だと、腹切られてるぞ」


分かりにくいミュウの話を要約すると……。

昨晩、ジェイドはミュウを解剖しようとした(らしい)。

恐怖を感じたミュウは、『伝説の力(仮)』を使って逃げた(らしい)。

気がつくと、二人は入れ替わっていた(らしい)。

元に戻る方法は、不明(らしい)。


「つーか、ジェイド。何で解剖しようとしたんだよ」

「あー、単なる好奇心ですが?」

「もし、その好奇心が俺らに向いていたら……」


ガイの言葉にジェイド(見た目ミュウ)は、にやりと笑った。

その目は、言葉で聞くより明白だった。

今まで無事でいたことが奇跡だ。

彼らは、今更ながら『死霊使い』の恐ろしさを知った。


「ねえ、ミュウ。長老に訊いたら、何か分かるんじゃないのー?」


アニスの問いに、ミュウ(見た目はジェイド)は、視線を逸らした。

そのまま話を逸らしたそうだ。


「実は、長老は……」

「何も知らないの?」


ティアが優しく問いかける。

見た目ジェイドのミュウに。

変な光景だ。


「慰安旅行に行ってるですの」

「……慰安旅行?」

「はいですの! あの森のチーグル達とライガさん達と」

「……」

「和解できましたのね! 良かったですわ」


手をぽんと叩いて喜ぶナタリアとは反対に、他のメンバーは苦笑を浮かべていた。

その話が本当なら、全員無事に帰って来るといいな。

とか思っていた。


「大佐〜」

「何ですか、アニス」

「自分が『ですの〜♪』って言っている姿は、どうですか?」

「……泣きたくなりますね!」


そんな怖い笑顔は見たくなかった。

アニスは少しだけ後悔した。


「取り敢えず、話をまとめるぞ。ミュウもジェイドも元に戻りたいんだよな?」

「勿論ですの!」

「ま、可能でしたら」



(可能じゃなかったら、諦めるのかよ!)



心の中で突っ込んでおいた。

口に出すのが怖かったから。


「何か良いアイディアは、ないかしら」

「残念ながら、私は協力できそうにありませんわ……」

「アニスちゃんもお手上げだよぅ」

「……ガイ?」


先程から黙り込んでいる彼に声をかける。


「これは、チーグルの呪いだよな」

「ミュウの話だと、そうね」

「何で、ミュウにもその呪いがかかっているんだ?」



『!!!!!』



「ミュウに願望があった……とか?」


何故、ジェイドになりたいんだ!?

と全員が思ったが、少し想像してみることにした。


「あれだ! ルークより背が高くなりたかったんだよ!」

「そんな理由なわけないだろ」


自信満々に発言したソレをきっぱり否定されたアニスは、ガイを追いかけ始めた。


「アニス、俺が悪かったから近づかないでくれ!」

「やだっ。すっごく傷ついたんだから!」


食堂内を走り回る二人を放っておいて、話を続ける。


「実は、最強キャラになりたかった……とか?」

「確かにジェイドは最強だけどよ」

「いやですねぇ。ただの年寄りですよ」


さりげなくメンバーに加わっている。

誰も気づいていなかったようで、驚き一歩体を引いた。

ティアは撫でようとする右手を必死で押さえていた。


「ジェイドは何か分からないのか?」

「分かっていたら、とっくに元に戻っていますよ」



(絶対に楽しみたくて、暫くそのままでいると思うけどな)



「ルーク?」

「あ、いや……。ナタリアは……」


ルークが振り返ると、ミュウとジェイドを握手させようとしているナタリアが目に入った。


「いいですこと? これで、解剖されたことも入れ替わってイメージダウンしたことも水に流すのですわよ」

「や、解剖はしてないだろ。しようとしただけだろ」


ルークは真面目に突っ込んだ。

それに、触れてくれるメンバーはいなかったが。

ミュウとジェイドが握手した途端、辺りを光が包み込んだ。


「一体、何があったんだ?」


光が収まり、目を開ける。

別に変わった所は見当たらなかった。


「おや。元に戻りましたか」

「戻ったですのー!」


そう言ったのは、ジェイドとミュウ。

昨日までの口調で。


「ジェイド?」


ルークはジェイドに尋ねた。


「はい。もう少し楽しめるかなーと思いましたが、意外と早く戻りましたね」


にこにこと何やら感じる笑み。

間違いない。

ジェイドだ。

本当に戻ったらしい。


「よ、良かったな」

「何ですか、その複雑な顔は」

「そんな顔してねーよ」

「戻って良かったですの〜」


ピョコっとルークの肩に飛び乗るミュウ。

ウザイとも思ったが、事件(?)は無事に解決したのだ。

今日くらいは構わないだろう。

耳元でうるさく響くミュウの声を聞きながら、そう思った。



この一件は、後に『ミュウの呪い事件』として、小さな伝説になった。






E N D



2008/07/01
移動 2011/02/01




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