明けない空…2
※《遺跡》崩壊後



 背に廻された腕に、安堵と戸惑いを感じた。
 勝算が無かった訳ではない。いくら何でも、親友としか思われていない相手を押し倒すなんて早々と出来る事じゃ無いだろう。

「九龍」

 首筋に何度もキスを落とし、時折強く吸い上げ痕を残す。
 《遺跡》からその儘だった装備を剥ぎ取りながら、意思の確認をするように名前を呼んだ。
 もし、拒否されたら―――あまり自信は無いが―――止めるつもりだった。だが、ピクリと体を震わせただけで九龍から拒む言葉は一切出て来なかった。




明けない空―side・M






 いつもと変わらない、カレーとラベンダーの匂いが染み付いた部屋に、いつもと違う声が木霊する。
 それをもっと聞きたくて、俺は九龍の胸に舌を滑らせた。
 肌に残る傷痕を追い、丁寧に舐め上げる。真新しい傷は自分が付けた物だろうかと考えるとゾクゾクとした何かが背を駆け上る。

「……っあ……」

 さっきから弄られ続けた突起は、赤く腫れ上がり少しの刺激にすら過敏な反応を見せる。片方を指先で摘んだりしながらもう一方を舌先で押しつぶすように舐めると、触れてもいない性器から蜜が溢れた。空いた手を下肢に伸ばし、音を立て擦れば素直に反応を返してくる。
 漏れる声が耐え難いのか、手の甲を唇に押し当て必死に押し殺す様が堪らなく愛しい。
 野郎相手にそう思うなんて、完全に末期だ。
 突如、汗や精液の匂いに混じり場にそぐわない匂いが鼻に衝いた。
 はっとし、唇に当てられていた手を掴み引き剥がす。銃火器を自在に操る手からは赤い筋が伝い、酷く儚げに見せ掛けた。

「おま……ッ。噛むなッ」
「だ、だって……」

 声が、と続く言葉をキスで奪う。咥内に残る微かな血の味が、俺の理性を更に融かした。

「ん……ふぁ……」
「嫌なら、塞いでやるから」

 だから、これ以上その身を傷付けるな。
 さんざ傷付けた俺が言えた義理ではないのは解っている。
だが、それも要因のひとつなのだろう。傷付く九龍を見たくは無いと、今迄感じた事の無い強さで願っていた。
 僅かに萎えた性器に指を絡ませ、緩急をつけて追い上げる。
 流れ落ちる精液を助けに、奥まった箇所へ絡ませていた指を差し入れた。本来の用途でない其処は、簡単には異物を受け入れない。少しでも負担を減らそうと、前を扱きながらゆっくりと後ろを探った。

「……ん、う……ッ」
「痛いか?」
「へ……き……」

 何処がだよ。辛そうな顔してる癖に。
 そうは思うが、此処で止める方が辛い気がする。それに、もう止めれる訳が無かった。
 内部を探る指を増やし、探り当てた前立腺を刺激する。それは予想以上の快感なのか、擦る度に九龍から甘い吐息が吐き出される。
 嬌態に煽られ、指を引き抜き自身を宛がう。未だ解すのが足りない気がするが、好い加減俺も限界が近かった。
 最初は慎重に。途中からは一気に貫く。反射的に上がりそうになる声を嫌い、九龍が口付けを求める。
 あとは、ただ夢中に互いを貪った。





 ***************






 静かな室内で耳をそばだてる。微かな物音と共に、隣室から消える気配に俺はギリ、と銜えただけのアロマパイプを噛み締めた。起きている事に気付かれたくなかったから、落ち着きたいと渇望しても火は点けれない。
 止められるものなら、今直ぐにでも追い掛けて捕まえてしまいたい。だが、それは叶わぬ願い。
 九龍は、自由であるからこそ、彼で在り続ける。

「解ってんのは頭だけか……」

 こそりと閉めたカーテンの隙間から外を眺めた。視線の先に、見慣れた背中が小さな荷物ひとつだけを手に去って行くのが見える。
 数々の戦利品(と言う名の學園の備品)や、仲間から貰った物総てを置いて行くつもりらしい。
 戻る気も無い癖にな、と一人ごちる。
 次の任地が決まったと聞いた時、俺は「待つ」と言った。
 だから、「必ず戻って来い」とも。
 それを告げた時、九龍は複雑な、奇妙な顔をしていた。本人は別れのつもりだったのだろうが、生憎俺は九龍を手放す気も、諦めるつもりも毛頭無い。

「待っててやるよ。卒業までは、な」

 見えなくなった影に告げる。戻らない彼を待つのは、その時までで良い。戻って来ないのなら、此方から追い掛ければ良い話だ。
 たとえ、世界の何処に居ようとも。生きている限りは可能性はゼロじゃない。
 決意を新たに、胸に刻んだ。








 もうすぐ、朝が訪れようとしていた。




side H
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無配SSだったもの。
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