おそろい
※にゃんこーず



 視界の端で、2本の―――片方は根元で二股に分かれているので、正しくは3本の―――尻尾がゆらゆらと揺れている。
 全く同じタイミングで左右に動く様は、雪男にひとつの思いを抱かせていた。
 兄は、実のところ猫叉系の悪魔なのではないか、と。
 サタンの実子で、青い炎を受け継いだ者だとは充分に、それはもう嫌という程に理解している。だが、今の尻尾や常の行動は、ベッドに寝転がり隣にいる兄の手元を覗き込んでいる子猫のそれにそっくりなのだった。
 ふと、子猫と兄が覗き込んでいるものに視線を遣ると昨日買って来たばかりのSQが既に変な汁で汚れていた。
 昨夜は急な任務が入ってしまい、買って来た当人である雪男は未だに1ページも読めていない。
 軽く溜め息を吐き、兄の顔へと視線を動かす。何か琴線に触れる話でもあったのか、その顔は雪男の予想通りに涙や鼻水でぐしゃぐしゃに汚れていた。
 感情の起伏が激しい性質だとは思っていたが、ここまで激しいと何かヤバイのでないか、と不安になってくる。何がヤバイのかは、見当も付かないが。

「まったく……」

 塾生向けの資料を作成していた手を止め、ベッド下収納からタオルを取り出し燐の元へ足を向ける。何気に手にしたのは、割りと気に入っている素材のものだったが、わざわざ変える気にもならなかった。

「変な汁で汚さないでって、前にも言っただろ」
「へ?あ、まだ読んでんのに!」

 余程夢中になっていたのか、雪男はその接近にすら気付いていなかった燐の手から簡単にSQを奪い返した。
 尻尾を激しく振りながら、ぎゃあぎゃあと文句を言い続ける燐を黙殺し、雑誌の状態を確認する。微妙に濡れてはいるが、読めない程度ではない。
 代わりに、雪男は手にしていたタオルを燐の顔面に投げ付けた。

「顔洗ってきなよ。もう直ぐで塾の授業だろ」

 雪男の言葉に、燐が一瞬ぽかんとする。同時に尻尾も動きを止め、疑問を示すように先だけが曲がっていた。
 燐は緩慢な動作で自分の腕時計に目を落とすと、勢い良くベッドから飛び降りた。

「げ、もうそんな時間かよ!雪男、サンキューな!」

 尻尾をピンと立て、雪男が寄越したタオルを手に洗面所へ向かう。
 雪男はその背を見送りながら、「やっぱり猫系なんじゃないか」と疑惑を深めたのだった。



   終


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