真昼の月、真夜中の太陽…4
目に見えなくとも、其処に在り続けるモノ。仮令、その想いを伝えられなくとも。



「何で来たんだよ」
「………」
「もしかして、取手かリカちゃんが何か言ってたのか?」

 先に帰したバディ達の名を上げる。二人とも、別れる直前まで心配そうな顔をしていたが怪我の事は何も触れていない。よしんば、気付かれていたとしても取手が寝ているであろう皆守を起こすとは考え辛かったし、ましてや椎名は女性だ。深夜の時間帯に、男子寮に入れる訳が無い。
 矢継ぎ早に放たれる質問に一切答える事無く、皆守は黙々と傷口を拭いていた。
 つと、皆守の手が九龍の頬に伸びる。

「此処にも血が飛んでるな」
「へ?」

 言い終わると同時に、生温かいモノが指摘された箇所に触れる。それが何なのか思い当たったのは、柔らかな癖毛が顔に触れたからだった。

「え?ちょ、何やってんだよ!」
「何って、綺麗にしてやってるんだろ」
「手ェ使え!ていうか言えッ!」

 ケモノか、コイツは。
 流れで皆守に処理を任せてしまっていたが、そもそも総て一人で行おうとしていたのだ。もう良いから離せ、と皆守の体を押し退けようとするが、反対に両の二の腕をきつく掴まれる。

「此処も、だ」

 言って、今度は首筋を舐め上げる。ゾクリとした感覚が、九龍の背を走った。明らかな、快楽のソレ。
 皆守の行動が理解出来ず、払い除けようとしても両腕を押さえられている為、それすら儘成らない。

「冗談……キツイって」
「冗談だと思うならそれで良いさ。だが、コレでお前は俺という存在を消す事はできないだろう?」
「何言って……ッァ」

 腕を掴んだまま、舌が首筋から喉、鎖骨へと流れ着く。所々を痛みを感じる程に強く吸われ、紅い跡が残された事を悟った。
 舌は更に下降を辿り、乳首を舐め上げる。途端、一層強い快感が九龍を襲った。逃げ打つ体を抑え付け、尚も執拗に攻め立てる。

「……や、め……ッ。何で……!」

 経験の無い感覚に、混乱は極まるばかり。行為を仕掛けてくる相手に恋情を持つ身としては、期待して良いのか、一種の罠なのかが解らない。
 もし罠ならば、効果は覿面だと纏まらない頭で九龍は考えていた。単なる裏切り行為なら、自分はこの上ない絶望に襲われるのだから。

「なんだ。もう勃起してるのか」
「……ッ」

 ズボンの上から、股間を緩く撫でられる。たったそれだけの刺激に、其処は更に自己主張を強めた。
 皆守の手が滑り、下肢からも衣服を剥いで行く。既に腕は押さえられていないというのに、九龍には動くだけの気力が残されていなかった。唯一出来たのは、目蓋を閉ざし視界を遮る事と、声を殺す事だけ。
 直接性器を嬲られる官能に、気が狂いそうになる。緩く袋を握り込んだかと思えば、急激に激しく竿を擦られる。
 強制された快楽から逃れようと閉じた目蓋に、皆守の唇が触れる。幾度か落とされた口付けは、手の動きとは裏腹に酷く優しい物だった。
 その違和感に、唇が離れるのと同じくして九龍の目蓋が持ち上がる。目を開けた直後、視界に入ったのは辛そうに眉根を寄せた皆守の顔だった。

「……んで、お前……そんな顔、して……んだよ」

 息も切れ切れに問い掛ける。犯されているのは此方だというのに、表情だけ見ればまるで皆守が被害者のようだ。
 返される答えは無く、行為だけが助長して行く。先端に軽く爪を食い込まされた刹那、九龍は呆気なく白濁を吐き出した。
 此処までされれば、次に来る行動は予想が付く。訪れる衝撃に、無意識に震えが起きる。だが、その予想が起こる事はなく、代わりに訪れたのは抱き締めて来る腕だった。

「……悪い」

 顔も見えない程に密着した状態で、直接鼓膜に囁かれる謝罪の言葉。行き成り襲われたのも訳が解らないが、行為を終えたのも意図が読み取れない。

「皆守?」

 如何動いて良いか判断が付かず、とりあえず名前を呼んでみる。ピクリと反応を返した肩に、九龍はそっと手を置いた。
 お互いに次の言葉が告げれず、無言のまま時が進む。先程と違い、空気を支配する気まずさは皆守が発していた。
 再度、空気を破ったのは九龍。

「えーと。好い加減に寒いんだけど」

 すっかり失念していたが、一分も衣服を乱していない皆守と違い、九龍は全裸の状態で石の床に座らされていた。
体温が上がっている間は気にする余裕も無かったが、熱が過ぎ去ると真冬の石畳は可也冷える。

「あ、あぁ」

 皆守は抱き締めていた腕を解くと、自身が着ていた上着を九龍の肩に掛けた。仄かに残る熱が、九龍の鼓動を跳ねさせる。
 こんな事をされても、未だ好きなのだ。
 好きだからこそ、どんな形であろうとも伸ばされたその手を拒む術を知らない。



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