真昼の月、真夜中の太陽
目に見えなくとも、其処に在り続けるモノ。仮令、その想いを伝えられなくとも。



 昨今の高校生ともなれば、多少の個人差はあれども色恋沙汰に興味があったりするもの。
 殊、女子高生という生き物は貪欲なまでに他人の恋愛に敏感な生き物だった。それは当然、現在に生きる女子高生を百数十名を有する天香學園でも変わる事は無く。寧ろ規制が厳しい所為かその傾向は顕著に表れていた。
 秋が終わりを告げ、冬の訪れを実感し始めた頃。
 最近になって、三年女子の間でまことしやかに囁かれている噂がひとつ。それが九龍の耳に入る迄、さして時間は掛からなかった。

「なぁ、皆守とやっちーって付き合ってんの?」
「……はぁ?」

 珍しく授業に顔を出し、そのまま教室でだらだらと時間を過ごしていた長閑な昼休み。突然発された九龍の言葉に皆守は素っ頓狂な声を上げた。その手から、今正に袋を破ろうとしていたカレーパンが乾いた音を立て机に落ちる。
 行き成り何を言い出すんだ、この馬鹿は。

「えー。だってリカちゃん達がさぁ」
「アイツ等の言う事を真に受けるな。お前は俺らの何を見てたんだよ」

これだけ傍に居て、恋人か如何か判らない訳がないだろう。
 カレーパンを拾い上げ袋を開ける。途端、油とスパイスの匂いが失せ掛けた食欲を呼び起こした。欲を言えばもう少し辛味が欲しいと常々思っているが、購買の惣菜パンにしては上等なものだろう。

「皆守って嘘付くの上手そうだし」
「八千穂を考えろ」
「俺が悪かった。ゴメンナサイ」

 良く言えば素直、平たく言えば単純な八千穂に隠し事など出来ないだろう。ましてや、それが真実だとするなら親友を公言して憚らない九龍に対し黙っているとは到底思えない。
 食事を終え、空になったビニールをゴミ箱に放る。
 皆守はそのまま戸口に向かうと、自席に残る九龍を振り返り無言で呼び寄せた。肩を並べ、いつも通りに屋上への道を歩く。
 階段に差し掛かった時、図書室にでも行っていたのかもう一方の噂の当事者が姿を見せた。
 不意に訪れた、現在最も注目株のツーショット(+九龍)。辺りの視線は、自然と其処に集まって行く。だが、当の八千穂は一切気にしていないのか、気付いていないのか。普段と全く同じ様に皆守に話し掛けてきたのだった。

「あれ?屋上行くの?」
「……ああ」

 対し、皆守は可也の居心地の悪さを感じてしまい如何も落ち着かない。さっさと屋上に向かい、夢という安息の中に身を置きたいのが現状だった。
話もそこそこに切り上げ、進めようとした歩を八千穂に塞がれる。

「もう昼休み終わりだよ?何でそんなに急いで……って、そっか。あの噂気にしてるんだ」
「お前なぁ。解ってんなら―――」
「大丈夫だよ。あたしがちゃんと本当のコト話してるから」
 
その理由があるから、付き合う訳が無いと自らの胸を叩き自信満々に答える。さして長い付き合いでは無いが、こんな八千穂を見る時は大抵碌な事が無いのは身に染みていた。
 嫌な予感を覚え、足早に去ろうとするが少しばかり八千穂が口をを開く方が早かった。

「だって、皆守クンの好きな人って九チャンだもんね!」

 異様なまでに確信を抱いた八千穂の台詞が、騒めく校舎に木霊する。こんな事ならば、たとえ担任に咎められようとも屋上ででもサボっておくのだったと皆守は何処か遠くで考えていた。






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