DEEP FOREST
※皆守←葉佩
まるで其れは深い森。 光射さない、繁みの中。 誰も踏み入れる事の叶わない、閉ざされた場所。
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何かを隠している事は気付いていた。 時々、辛そうに俺を見ている事も知っている。 ―――だけど。確信も無いままに、彼の心に踏み入れられなかった。 傷付けるのも、傷付くのも恐くて。 臆病な考えに、俺は僅かに自嘲を漏らした。何時の間に、こんなに弱くなったのだろう。 独りで居るのが当たり前だった日常が、遠い日のように思えた。
「……馬鹿だよなぁ」
任務だけを考えていれば良かったのに。 其れにすら巻き込み、誰よりも一番近い存在を作ってしまった。プロ失格だ。 コンクリートに寝転がり、空を見上げる。 青く晴れ渡る空とは対蹠的に、俺の心にはどんよりとした雲が繋かっていた。 ふと、花の香りが届く。
「お前が馬鹿なのは今に始まった事じゃないだろ」 「うっわ。酷ッ!いきなり現れて其れかよ」
第一、俺は誰とも言っていない。……いや、確かに自分に向けて言ったんだけどさ。 皆守は胸中で文句をつく俺の横に腰を降ろすと、手にしていたものを俺の腹に落とした。 カレーパンと、お気に入りのコーヒー牛乳。
「……これ」 「良いから食え。腹が減ってると碌な事を考えないからな」
どうせ食ってないんだろ、と言って、ふわりと笑う。 俺の好きな――嫌いな、優しい瞳。 想いが強く成れば強く成る程、皆守の嘘が怖くなった。 いつか知る真実に、言いようの無い恐怖を覚える。
「九龍…?」
黙りこくる俺に、皆守が声を掛ける。 これ以上訝しられない様に、俺は精一杯いつも通りの顔と台詞を選んだ。
「……焼きそばパンが良かった」 「――なら返せ」 「わぁ!嘘、ゴメン!有り難くイタダキマスッ」
取り上げられたカレーパンに必死に手を伸ばす。 うん。大丈夫。 ちゃんと、笑えてる。 これから先も、何があろうとも笑ってみせる。 そう心に決め、俺は皆守にじゃれついた。
深い、深い心の森。 どんな恐怖にも、痛みにも耐えてみせたら、其の森に辿り着ける?
終
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