雨の所為だと思った。
微かな震えも、自分のものではない熱を求めるのも。
零 ・ 降り続く
力任せに、相手を本棚に押し付ける。棚全体に振動が伝い、何冊かの本が落下する乾いた音が耳に届いた。本が折れてしまうな、と頭の片隅で考えたが今は目の前の存在を貪る以外は如何でも良かった。
「……ッ……」
重ね合わせ、塞いでいた唇から息が漏れる。それすら逃がすのが惜しく、開いた隙間に舌を差し入れ更に進入を深めた。
降り続ける雨音に混ざり、淫靡な水音が互いの鼓膜を犯していく。
段々と呼吸が苦しくなったのか、行為を止めるように制服を掴んでいた指から力が抜ける。解放した途端、糸の切れた人形のように本棚に押し付けられた体勢の儘床にへたり込んだ。
向かいに膝を着き、僅か下方にある顔を両手で包み上向かせる。普段ならば、身長差の所為で叶わぬ位置から覗いた表情は驚愕と恥辱に染まっていた。
嫌悪や怒りが見えなかった事に、今更ながら安堵を覚える。
今は未だ、驚愕が勝っているだけだとは理解している。
後で、この関係が最悪な方向へ転ぶであろう事も。
それでも───、それでも、欲しかった。
ただ、ひたすらに渇望していた。
「 」
何かを紡ぎ掛けた唇が、音を発しない儘閉じられる。聞き返す事もせず、顔を包んでいた両手を下に滑らせ、着物の襟を掴み引き下ろした。
中に着ているシャツの釦を外しながら、白い首筋に口付けを落とす。
するりと布地が落ちる度、細い身体が僅かに反応するが、手を止められる事は無かった。
「……抵抗、しないんですか?」
して欲しい訳ではなかった。だが、心の何処かではこの想いを否定して欲しいと願っていた。
傷付けるしか出来ない想いなど、決して認められたものではないのだから。
返らない応えに小さな苛立ちを覚えながらも、行為を止める事はしなかった。
雨は、止みそうになかった。