ライン
※死ネタ注意



この話は久藤卒業後という捏造未来の上に、死ネタです。
苦手な方は見ないが吉かと。
大丈夫な方はスクロールして下さいませ。


























 静かに本を読む横顔も。
 楽しそうに話す、穏やかな笑顔も。
 不意に見せる、悲し気な目も。
 すべては、あの時から。



 ***********



 卒業以来、一度も訪れる事の無かった母校は、記憶にある名前と何一つ重ならなかった。ネーミングライツ制度は未だ健在なんだな、と久藤は懐かしさを覚える。
 木枯しの吹く季節。今まで思い出しもしなかった場所を訪ねてみようと思ったのは、一通の葉書が原因だった。数日前に、実家から転送されてきた懐かしい人からの手紙。
 肩から下げた鞄を開け、手紙を取り出す。持ち歩く必要性は全く無いのだが、家を出る直前に何故か鞄に仕舞い込んでいた。
 それは、季節の花が小さく印刷された、何処にでもあるような葉書だった。その上に、差出人らしい綺麗な毛筆体で短い言葉が綴られている。
 ただ、其処に書かれた文面が、久藤には予想外のもので。
何かと絶望し、世を斜めに見ることしか出来ない人物からは出にくいであろう言葉。礼儀的な文章も近況を尋ねる文字もなく、ただそれだけが綴られていた。
 心境が変わっただけなら、良いと思う。
 絶望から少しでも離れられたなら、安易に死を選ぶ事もないだろう。
 久々に顔を見て、昔のように本談義に花を咲かせたいな等と考えながら、久藤は校舎へと足み入れた。






 先ず足を向けたのは、毎日居たと言っても過言ではない程通い詰めていた図書室だった。
 放課後という時間帯の所為か、常日頃の状態なのか。卒業生とはいえ既に外部の人間である久藤の入室を咎める者はもとより、誰一人の姿も無い。暖房はしっかり効いているから、図書当番は少し席を外しているだけかも知れないが。
 これ幸いと、久藤は書棚を眺めながら奥に歩を進めた。入荷した覚えの無い本に、学校名を見た時以上に時の流れを感じる。
 記憶にある本を手に取り、頁を捲った。共に開かれるのは、在学当時の思い出。
 此処は、担任だった彼と初めてまともに会話した場所だった。
あの時、何を考えて其処に至ったのか、彼は久藤が心を読むことが出来ると本気で信じていた。
 読める訳がないと、幾度となく否定したが、卒業を迎える頃ですら疑われていた気がする。
 他人に対する疑惑を隠そうともせず、本人に直接ぶつけてくる姿は教師――否、大人として如何かと囁かれていたが、久藤は担任のそんな所が気に入っていた。
 子供みたいな態度かと思えば、老成した大人の見解を示す、アンバランスな性格。恐らく、良い意味でも、悪い意味でも純粋な人だったのだろう。
 そういえば、彼は矢鱈と女生徒からの人気が高かった記憶がある。中には本気で秋波を送る強者の姿もあり、彼の周りには常に女生徒が居た。図書の仕事中に、複数の女生徒に捕まり困惑していたのを見かねて助けた事もあったな、と思い出し僅かに笑みを洩らす。 あの時引いた手の、自分より少し高い体温と、僅かな震えを今でも鮮明に覚えている。

「……久藤?」

 何時の間に入室していたのか、不意に、何処かで聴いたような声が久藤の名前を呼んだ。
 振り返った先に居たのは、今時珍しい和装姿の青年。
 先生、と敬称を呼びかけたが、久藤は青年に違和感を覚え口を閉ざした。
 あどけなさを残した目の前の彼は、青年というより少年と呼ぶに相応しい。
 年の頃は、丁度高校に在籍している位か。

「もしかして、交くん?」

 この年頃で、かつての担任に似た姿を持つ少年。一人だけ思い当った名を口にすると、少年は昔と変わらない明朗な笑顔を見せた。

「やっぱり兄ちゃん!何か用事なのか?」
「いや、別にそういう訳じゃないけど」

 手にしていた本を書棚に戻し、交に向き直る。
 急ぐ用は無い旨を伝えると、交は手近な席に久藤を誘った。
 共有する過去を持つ者が集うと、咲くのは思い出話とお互いの近況。
 交が今年この高校に入学した事に話が及び、今に繋がる糸を紡ぎ始める。
 最中(さなか)、ひとつの名前が全く出ない事に、久藤は疑問を抱いた。
 お互いの中でも、一番関わりが深い筈のその名前。

「そういえば、先生は?」

 在籍を確認せずに此処まで来たが、転任や退職している可能性に漸く思い至った。もし、勤めが変わっていないのならば挨拶をしておきたい。元々、彼に会いに来たのだ。
 途端、交の顔から笑みが失せた。
 何故それを聞くのか、と疑問を浮かべた顔を久藤に向ける。

「手紙貰ったんだけど……。交くん?」
「……いつ」

 数瞬後、交は一度深呼吸をすると、真剣な面持ちで久藤を見詰め直した。
 真っ直ぐな視線に、久藤の心臓が脈打つ。
 掻き立てられるのは、一抹の不安。
 まさか。
 まさか、本当に。



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