祭りの前に
真神學園文化祭準備期間



 秋と言う季節は、学校という社会に於いて、割りと行事が多い季節である。
 学校毎に因るが、基本は修学旅行に体育祭、文化祭等といった処だろう。例に漏れず、此処――真神學園でも、文化祭の準備に學園中が追われていた。

「おーい、釘取ってくれ!」
「この飾り何処のよ」
「そっち支えて…あ、違うって」

 生徒達が口々に喋りながら、一つの物事に向かい協力しあう。
 その中を、ベニヤ板を抱えた龍麻が意気揚揚と歩いていた。
 転校して来て、最初で最後の文化祭。楽しまないのは勿体ない。
 基本的にお祭り体質な龍麻は、イベント事が何よりも好きだった。

「お待たせ。追加のベニヤ持って来たよ」
「すまんな」
「ありがと、ひーちゃん!」

 各々、トンカチや刷毛を持ったまま醍醐と小蒔が答える。美里は生徒会が忙しい為、クラスの設営には余り参加していなかった。
 辺りを見回し、溜息を吐く。

(――やっぱり)

 あの馬鹿の姿が無い。
 ベニヤ板を取りに行く時、一緒になって来たがったのを、頑張って阻止した努力は何だったんだ。

(教室を出たらサボりに行くと思ったから置いて行ったのに!)

 結局は同じ事だったとは。

「…京一は」
「え?あー!あのバカ、何時の間に!?」
「小蒔が気付いてないって事は、そう時間経ってないな」

 どうせ裏庭の木で寝ているのだろう。探しに行くのも面倒臭い。
 京一は放っておく事にし、龍麻はさっさと作業を再開させる。
 結果、京一の抜けた穴は、何故か『相棒だから』という理由で、龍麻が担わされてしまった。









 秋の陽は、落ちるのが早い。小一時間前迄は暑い位だった気温が、今は肌に冷たい。
 京一は木の上で、ひとつ伸びをすると手慣れた様子で飛び降りると、その先に、相棒の姿を見つけた。

「よ、ひーちゃん」
「『よ』じゃねぇよ。サボりやがって」

 憮然とする龍麻の肩を抱き、へへへ、と笑う。

「まぁ堅い事言うなよ。俺が居ても仕様がねぇだろ?」
「確かに」
「…フォローしろよ…」

 軽いノリで言った一言に、強烈なカウンターを食らう。
 少々項垂れた京一に、龍麻は極上の笑みを浮かべ向き直った。

「冗談だって。ラーメンでも食いに行こうぜ?―――京一の奢りで」
「は!?」
「お前の所為で、俺は倍の仕事させられたし。それとも、文化祭当日に一日当番するか?」

 つまり、其れは一切遊び回れないと言う事。折角のお祭りに何が悲しくて、一人暗闇に居なければならんのだ。

「分ーったよ!奢りゃ良いんだろ、奢れば!」
「分かれば宜しい」

 龍麻は軽快に笑いながら校門へ向かった。今月の出費を考えながら、京一がその後に続く。

「遅いよ!ボクもうお腹空き過ぎてるんだから」
「うふふ。小蒔ったら」

 校門から声が聞こえる。其処には、いつものメンバー。

「まさか…」

 嫌な予感を覚え、龍麻をチラリと見た。
 先程と変わらない、綺麗な笑みが京一を捕らえる。

「俺一人奢れとは言ってないし」
「全員とも聞いてねぇよ!」

 ただでさえギリギリだった財布の中身が、此れでは破産間違いない。
 京一は今夜にでも、こっそりと旧校舎で稼ごうと心に決めたのだった。








   終


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