鳥籠姫
※悪ノ娘
綺麗なドレスも。
煌びやかな宝石も。
この世のすべてが、私のものって決まっているでしょう?
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王宮が誇る中庭は、城の上階から眺める分には物足りないと思っていた。
だが、いざ中を歩くとなると複雑に組まれた薔薇園などが視界を遮り、規模が把握しきれないのだとリンは今更ながらに感じていた。歩き始めてから数分と経っていないが、既に後悔し始めている。
こんな事なら、自分で行こうと思わず、誰かメイドにでも行かせれば良かった。靴もドレスも汚れるし、何よりも疲れる。
それもこれも全部レンが悪い、とリンは未だ見付からない探し相手に心中で悪態を吐いた。
ふと、風に流れてきたのか澄んだ囀りが耳に届く。
聴きなれない音に興味を抱き、足を向けた先にはリンと同じような顔立ちをした少年の姿。噴水のほとりに建てられた東屋の中で、何かしらの作業を行っているようだったが、直ぐ様リンに気付き、声を掛けてきた。
「リン。中庭に来るなんて、どうしたんだよ」
「どうしたも何も、アンタが居ないのが悪いんじゃない!」
王女にあるまじき大股で、ずかずかとレンに近付く。その際、視界に飛び込んできた緑色にリンの意識は横にずれた。
小さな鳥籠の中に匿われた、植物の緑とは違う温かみのある薄い緑。その色からは、先程聴こえてきた音が放たれていた。
「……鳥?」
「ああ、昨日拾ったんだ。羽を怪我してるみたいだからさ。治るまで看てみようかと思って」
そっと籠を撫で、柔らかな笑顔を鳥に注ぐ。それに呼応するかのように、鳥から小さな鳴き声が上がった。
「ふぅん。ま、私には関係ないけど」
それよりも大切な事があるでしょう、とレンを指差す。 一瞬、なんの事か分からないようだったが、陽の高さを見て理解したレンは鳥に向けた以上の笑顔をリンに向けた。
「畏まりました、お姫様。ブリオッシュで宜しかったでしょうか?」
「ちゃんと、胡桃も入れてよね」
教会の鐘が鳴り響く時間、鐘の音と共に午後のお茶を摂るのが、リンの楽しみのひとつだった。中でも、レンが作ったブリオッシュが特に気に入っている。
召使らしく、リンに一礼をし厨房に向かうレンを見送る。東屋に残されたのは、この国の王女と、鳥籠の中の鳥だけ。
リンは鳥籠を眼前にまで持ち上げると、中の鳥をじっと見詰めた。見詰めながら、噴水の縁にまで歩を進める。
陽に輝く緑色の羽。
耳に心地良い、穏やかな歌声。
何を取っても、庇護欲を誘うには充分過ぎる姿だ。
「……でも、レンは私のだから」
私は、私のモノを自分以外に渡す気はないから。
満面の笑みを浮かべ、鳥籠から手を離す。閉じ込められた鳥は逃げ出す事も叶わず、そのまま、鳥籠と共に水の中へと消えた。
全部、私のモノなのだから。
渡すくらいなら、いっそ奪う相手を壊してしまいましょう。
終
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