A mere shadow of one's true self
※ジェイド逆行



 白い花、白い月。
 それらを背に、聖女の血を引く娘の唄に導かれるように現れた赤は、愛した子供ではなかった。
 今は純粋に帰還を喜んでいる彼女達も、いずれ真実を知るだろう。それが偶然か、彼の口に因るものかは分からないが。
 記憶だけを遺して音素に還った子供を想い、ジェイドは僅かに目を伏せた。



 **********



 眼前に紅が踊る。
 肌に感じるのは、圧倒的な熱と巻き起こる風。あとは、庇うように覆い被さってくる人の質量。
 徐々に失われていく体温が、相手の状態を物語っている。
 あまり人に触れられるのを得意としていない身が、抱き付かれている感覚に嫌悪を抱いていない事に疑問を持った。一体、何処の誰だというのか。
 確認しようと動かした首が、柔らかな銀糸に触れた。そして、目に映ったのは。

「ネビリム……先、生……?」

 覆い被る人物は、かつて殺してしまった師の姿をしていた。それを支える自身の腕は、見慣れた軍人のそれではなく、あまりにも幼い。
 まるで、過去の罪を繰り返しているような光景。何時の間にか転寝でもしてしまったのだろうか、と記憶の糸を手繰る。たしか、先程までは――――。

「ジェイド……怪我は、無い……?」

 思考を断ち切るようなタイミングで、声を掛けられる。記憶よりも弱々しく、だが同じ優しい声音が、彼女がレプリカでも夢でも無い現実だとジェイドに告げていた。
 ならば、このままだと、ネビリムは再びその生を喪ってしまうだろう。
 昔、馬鹿な子供は第七音素が使えない自分にはこれしか術がないと、後の災厄を生み出した。
 二度と過ちを繰り返してはならないと理性は訴え掛けるが、別の思考がジェイドを支配していた。
 此処でレプリカネビリムを生み出さなければ、サフィールがレプリカに拘る理由が無くなってしまう。
 理論を確立させたのは己とは言え、実際に譜業を完成させたのは彼だ。
 フォミクリーが無ければ、愛しい緋色は生まれない。
 自分のものよりも高い声を聞くことも、見上げてくる翠碧の瞳に映ることも。
 あの肌に触れ、愛おしむことも出来なくなってしまう。

「先生……すいません」

 ネビリムの背に腕を回し、緩く抱き締める。既に峠を迎えているのか、ネビリムの体からは完全に力が抜けていた。
 辺りで見ているだろうサフィールを呼び付け、人気の無い場所にネビリムを運ぶ。相変わらず欝陶しいサフィールの言葉を半ば聞き流しながら、ジェイドは罪を重ねる為の術を口にした。





 ――幾度となく時を戻しても。
 貴方を求め、私は悲劇を繰り返す。






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ゲーム開始直後辺りの逆行は良く見掛けるので、更に過去にしてみました。
タイトル意味は『魂の抜け殻』。


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