うさぎ、うさぎ。
※多分、超番外設定

 


『うさぎは寂しいと死んでしまう』なんて。



「馬鹿げた戯言だと思わないか」

 ぽつりと呟かれた言葉に、直江は処理していた書類から視線を外し発生源に向けた。其処には、窓辺に移動させたソファに身を沈め、不機嫌を露わに外を見詰める愛しい主君の姿。昨夜の疲れから、先程まで微睡んでいたが、気付かぬ間に起きていたらしい。
 書類を片し、主の傍らに歩を進める。兄に急ぎだと頼まれていた仕事だったが、直江の中で優先すべき事項はそれではなかった。

「どうして、そう思うんですか?」
「本来、兎は縄張り意識が強く、単独行動を行う生き物なんだ。なのに《寂しくて》死ぬって可笑しいだろう」

 視線を外の景色から動かさず、そんな話は人間が造り上げた勝手な幻想に過ぎない、と不平を並べる。
 原因の判らない不機嫌に、何とか意識の方向を変えれないか直江は思考を巡らせた。ふと、視界に納めた高耶の表情が気にかかる。
 常よりも下げられた睫毛に、僅かながらに尖らせた唇。
 よもや、と期待が胸を掠める。浮かぶ笑みを抑える事もせず、直江は高耶の隣に腰を下ろした。

「多分――兎は誰かの側に居る事を覚えてしまったから、寂しくなるんだと思いますよ」

 丁度、今のあなたみたいに。
 続けた言葉に、高耶の顔――― のみならず、見える範囲全て ―――に朱色が浮かぶ。

「な、何言って……!」
「私が仕事ばかりしているから、寂しかったの?昨夜はあんなにも可愛がってあげたのに」

 言いながら、さっきまで仕事をしていた指で高耶の首筋をゆっくりと撫で上げる。指先が自分が残した跡に辿り着くと、直江はその動きを止めた。
 不意に止まった手に、そこに何があるのか思い当たったのであろう高耶が、羞恥を刷いたままの目で直江を睨み上げる。
 刹那、稚い子猫を思わせていた黒耀の目が眇められた。その瞬間に、子猫の目は支配者のそれへと変わる。
 高耶は隣に座る男へと腕を延ばすと、男の頭に両手を添え自らへと引き寄せた。唇同士が触れるギリギリの距離で、視線を合わせたまま囁きかける。

「――― だったら、すべき事は解っているだろう?」
「……御意」

 首筋に置いたままだった手を、今度は下に向かい滑らせる。この時、直江の頭から仕事のことなどは一切消え去ったのだった。




   終

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不動産の仕事は徹夜で終わらせたと思われる。

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