「なまえおかえり!ごはんにする?風呂にする?俺にする?それとも俺にする?」
「ごはんで」

くたくたになって帰ってきたというのに、待っていたのはいつも以上にうざい銀さんだった。疲れた日に限って銀さんのうざさが増す。ただ疲れているからそう感じてしまうだけかもしれない。

「おいおい空気読めよ。ここはもちろん銀さんよはーと、てなるもんだろ。さあ読んでみろ!おまえならできる」
「空気読めてないのは銀さんでしょ」

さっきからあたしは疲れてるんですオーラを放っているつもりだがこの男にはどうやら通じない。そこをどけ。通せ。疲れてるんだ眠らせろ。今何時だと思ってる。いいこはぐっすりおねむの時間だ。銀さんもいいこだから寝なさい。

「なまえちゃんよお、今日なんの日か知ってるの」
「なにいきなり」
「今日なんの日だっけ」

知らない、と答えると今までのおふざけと打って変って悲しそうな、切なそうな表情を一瞬見せた。銀さんのそんな表情を見たことがない。よくわからないが、罪悪感。

「ご、ごめん」
「なんか慣れたからもういいわ…」
「…慣れた?」「今日はですねーていうかあとちょっとで今日も終わっちゃいますがねー」

銀さんの誕生日なんですよー。と衝撃的なことを悲しげに答えた。衝撃的すぎて手に持っていた荷物もろもろを落としてしまった。落下地点は銀さんの足。いてェェェ!と男らしい叫び声が聞こえたがあたしの耳は右から左へ受け流している。

「先に言いなさいよおばか!」
「おばかはねえだろ。忘れられた挙句ばかにされたら銀さんもう立ち直れない」
「どうしようなにも準備してない、あああもう今日が終わる」

秒針が止まるはずもなく、分針が丁度ゼロをさした。今日が終わった。

「ごめ…銀さん」
「あーあ悲しいなー。なまえはいるのに寂しい誕生日送っちまったな〜」
「来年はちゃんと祝うから」
「待てませ〜ん」
「いじわる!」
「忘れてたのはなまえだろ」

じゃあどうしろと言うんだこの天パは。時間戻せってか。時間戻せってか!
忘れていたあたしが一番悪いのだが、ここまで責められると泣きそうになる。

「なまえおかえり!」
「…?」
「ごはんにする?風呂にする?」
「なに言って」
「俺にする?」
「…あ、」
「それとも俺にする?」

それは数分前にタイムスリップしたかのようで。

「じゃあ銀さんで」





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