いるだけで威圧感。恐怖感。焦燥感。存在だけでここまで恐怖に陥れる人間はそうそういないと思う。実際にそんな珍しい人間が斜め後ろにいるというのはどうだろう。緊張するにも程がある。斜め後ろでも緊張するんだ、隣じゃなくてよかった。本当によかった。もしも隣の席、なんてなったらとっくに廃人になってる。現に隣の席のかわいそうな人間は廃人になっていた。
今まではなに不自由なく、楽しくスクールライフを過ごしていた。授業中は友達と手紙の交換をやりあったり、夢の世界にダイブしたり。本当に自由だった。
ところが最近今まで空席だった斜め後ろの席に、つい忘れてたいたクラスメート、雲雀恭弥が居座るようになった。窓側の一番後ろ、なんて最高の席だ。ずっと空席だった理由がわかった。
風紀委員長の雲雀恭弥。教室にいる、ましてや授業を受けるなんて滅多にないこと。しかし最近は毎日のようにここにいる。どうした。
普段いない生徒がいることに、教団で授業を進めている教師は若干緊張しているようだ。教師だけではなくこのクラス全員なのだが。
窓側の一番後ろ、なんて最高の席に雲雀恭弥は座っている。きっと教師の言葉なんて右から左へ受け流して優雅に外でも見渡しているのだろう。そう勝手に思い込んでいたのだがそうでもないらしい。

「(なんかめっさ視線を感じるんですけど。斜め後ろから感じるんですけど)」

自惚れるわけではないが、斜め後ろから視線を痛いくらい感じる。身体貫かれそう。痛い。気のせいかもしれない。かといって確かめるほど勇気もない。頭を巡り巡らせ、勇気を出してちらっと後ろを見てみた。思いっきり目が合った。睨まれた。すぐにそらした。怖かった。

「(見てる!よくわかんないけどこっち見てる!なんで)」

ふと思い出す。そういえば最近、左耳にだけピアスホールを開けた。学校では見えないように髪で隠していたのだが、もしかしてばれてしまったのかも。
一瞬にして血の気がひいた。風紀委員にボコられる。今更遅いが左耳を隠すように髪をいじったり耳を押さえたり、とりあえず必死だった。
未だに続く斜め後ろからの視線。非常にいたたまれない。逃げたい。

「先生!おなかいたいので保健室行っていいですか」
「前も同じこと言ってサボってたよな」
「今回はマジです」
「マジとか言ってる自体でダメだろ」

教室内に笑いが飛んだ。
心のなかで舌打ちする。教師へのと過去の自分に。

「行かせたら」

一瞬にして笑いが止まった。
今日初めて聞いた雲雀恭弥の声。それは意外にもなまえへの助け船だった。
でも…、と続く言葉に「教師のくせに僕に意見するの」と一刀両断。強すぎる。
恐れ多くもお言葉に甘えて保健室に向かう。

「僕も行くよ」

ぜひとも遠慮したい。
これでは意味がない。雲雀恭弥から逃げるために行くというのに、ご一緒されては本当に意味がない。

「ひひひ一人で行けますから」
「僕の好意を無駄にする気?」
「お願いします」

怖すぎるだろ。
渋々雲雀の後ろを五メートル程距離をおいてついていく。着いたところは目的地とは程遠い、応接室。

「雲雀さん、あたし保健室に行きたいんですけど」
「健康な人間を保健室に行かせる程お人好しじゃないよ」
「え、だってさっき」
「サボろうとする生徒をみすみす見逃すわけないでしょ」
「う!」

ばれてた。
隠し通せるとも思っていなかったけれど。

「さてと」
「!」

とっさに目を瞑る。
応接室に連れて来られたということはそういうことなんだろう。ボコられる、風紀委員にボコられる。けれどいつまで経っても衝撃はやってこなかった。恐る恐る目を開けると、そこには委員の仕事をしてるであろう雲雀の姿だった。
つっ立ってるなまえを見て雲雀は「気が散るから適当に座れば」と座るように促した。状況に理解できないままソファーにすわる。
これはサボりを黙認してるということだろうか。

「君のいない授業を受ける程無駄な時間はないからね」
「は、い?」
「髪をいじる君の仕草、結構好きだよ」

軽々と言わないでほしい。雲雀と二人きりというだけで心臓がやばいのに、これ以上刺激するようなことを軽々と言わないでほしい。心臓終わる。
なまえとは裏腹にこっちを見ようともせずただただ書類に目を通している雲雀は平然としている。

「そういえばピアスは校則で禁止されてるはずだけど」

黒い笑みを浮かばせながら、なまえの隣に座る。終わった。今度こそボコられる。強く目を瞑る。

「なまえのことはなんでもわかるよ」
「え!今なまえ」
「まあ今回はこれで許してあげる」

唇をかすった。
不意打ち。
心臓終わった。





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