珍しく真剣な面持ちを見せている。本当に珍しい。たまにある五ツ葉を発見する以上に珍しい。五ツ葉は不幸を呼ぶから探すこともないのだけれど。あれつまりこの真剣な担任を見てしまったら不幸になるのか。
「接客業務に興味がある…ねぇ」
「…そうですよ」
「はいだめ」
「な!」
何時間も何時間も考え書き上げた志望動機をたった四文字の言葉でボツにされてしまった。辛口過ぎる。銀八のくせに。
寝る間も惜しんで書いたあたしの履歴書はあっと言う間に先生のちりがみとなった。ボツにされた以上に悲しみが込み上げてくる。
「やっぱ紙固くて痛ぇな」
「あたしも痛いです。心が」
くしゃくしゃと丸められあたしの努力の結晶プラス鼻水は無惨にもごみ箱へ。酷い仕打だ。
あぁ、また書き直しか。
あの作業を繰り返すと思うだけで溜め息が出る。
真剣な先生を見ると不幸になるのは本当だ。
「ていうかさ、なまえに就職はまだ早いと思うんだよね先生は」
「じゃあ進学しろと?」
「なまえバカだから」
つまり無理だと。
そんなもんやってみなきゃわかんねぇだろ!と口に出すことはなく心の中に抑え込んだ。やってみなくてもわかる。
じゃあどうしろと言うんだもしやプーになれと言うのかこの男は。先の見えないニート生活は御免だ。あたりまえだ。
「女は好きな男と結婚すりゃいいのそれが女の幸せっつーもん」
「まぁ…そうなんでしょうね最終的には」
「そうそう。だから」
すっ、と目の前に手を差し出してきた。
なんだ。手相でも見てほしいのか。
「先生、結婚線が二本もありますよ」
「おまえね。こういう状況でそんなこと言わないの」
こういう状況って。
いつの間にか伸ばされた手が後頭部を包みそのまま先生の胸板に押さえ付けられた。布越しに頬を通して先生の体温を感じる。
え、なに。どうなってんの。
「お嫁においで。なまえ」
お、よめ。
あたしは早く起きれないし遅くまで起きてられないしあああ違う違うって。
突然のことで頭がパニクって回転が悪い。とにかくなにか言えあたしなんでもいいから!
「就職失敗したら考えてもいい、です」
とっさに言ったこと。これはあたしの本心かどうかは不明です、だから
先生ごめん