開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。夜仲間を連れて来ると言ったお兄さんは、確かに仲間を連れてお店に来た。想像以上の大人数で。

「酒は準備してあるんだろう?」
「あ…はい」

酒だー!と乾杯、騒ぐ仲間達。こんなに賑やかな店内は初めてだ。

「あの…なんの集まりなんですか?」
「集まり?」
「みんな同じつなぎを着てる。大工さん?」
「大工?……ククッ」
「え!なんかおかしいこと言いました?」

お兄さんは手で顔を覆いながら大笑いしている。ギャグを言ったつもりはない。

「おれ達もまだまだってことだな」
「?」
「海賊」
「え」
「おれ達は海賊だ」

開いた口が塞がらない。本日二回目である。

「かかかかか海賊!?」
「ああ」
「じゃああの白クマも海賊!?クマなのに!?」
「クマが海賊ですいません…」
「聞こえてた!?」

クマさんが遠くで落ち込んでいる。なんて耳が良いんだ。クマだもんな。
海賊と聞いて、まじまじとお兄さんを見る。こんな細くてラフ過ぎる人が海賊?海賊ってもっとガッチリしてて怖い顔つきでオラオラしてるイメージがある。お兄さんは怖いが、海賊とは全く思えなかった。しかもかっこいい。怖いが。とりあえず今は料理を作りお酒を提供する。相手は海賊でも、同じ酒場に入れば皆同じ飲み仲間だ。

夜もすっかり更け、皆酒に呑まれ既に夢の中である。お兄さんはまだ起きて酒を飲んでいる。クマさんがムクッと起き、お兄さんの隣に座る。

「馳走になった」
「いえ。ほんの気持ちばかりですが…」
「そうだな」
「え」
「これだけじゃ礼にはならない」
「え…じゃあどうすれば…」

忘れていた。相手は海賊だということを。自然に身体が強張る。

「ベポ。おれ達には今なにが足りない」
「んー。コックがいないよキャプテン」
「そうだ。いい加減素人の飯を食うのも嫌気がさしてきたところだ」
「……あの」
「此処の飯はうまいな」
「そうだねキャプテン」
「と、言うことだ」
「な、なにが…」

すると今まで熟睡していたお兄さんの仲間達が一斉に立ち上がる。それにビックリしているとカウンター越しにお兄さんの手が伸ばされ胸元を掴まれた。殴られる!とっさに目を閉じたが痛みはやってこなく、代わりに浮遊感。目を開けるとそこには逆世界。そしてお兄さんの背中。あれ、これはもしやわたし担がれてる?ら、拉致される…!?

「行くぞ野郎共」
「アイアイ、キャプテン」
「ちょ、なにするんですか!」
「とりあえずその腰抜けなところはおれが鍛えてやる」
「なんの話し!?」

段々とわたしの店が遠ざかって行く。

「降ろしてください!」
「おれに命令するなと言ったはずだ。消すぞ」
「わ、わたしには店がっ」
「客なんて来ないんだろ」
「……」

図星である。

「客の来ない店で拵えるよりも大勢の奴等に食われる方が良いんじゃないのか」
「それは…」
「食うぞ、うちのクルーは」

確かに。うちは閑古鳥が鳴く、お客さんが滅多に来ないとこで料理をするのも寂しいものがあった。今日みたいに沢山の人に食べてもらえるのは凄く嬉しかった。お兄さんの言葉も一理ある。が。

「海賊に…わたしはならなーい!」

わたしの叫びは虚しく響くのだった。
そして名刺代わりにと渡された手配書にはお兄さんが写っていた。トラファルガー・ロー。懸賞金、二億。再び腰が抜けた。わたしはとんでもない所に来てしまったのでは…







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