あれから一夜が明けた。突然現れた三蔵と名乗る男を、とりあえず怪我が治るまで匿うことにした。話を聞いても内容はよくわからない。逆にこっちの常識が三蔵にはわからないようだ。記憶喪失とか、只の妄想男とか考えたが、着ている服や持ち物を見ると変わった物ばかりで。認めたくないが、この人は本当に違う世界の人間のようだ。こんなことって本当にあるんだ。ファンタジー過ぎる。しかし…

「あの」
「なんだ」
「煙草。吸いすぎじゃないですか」

人の家で断りもなくブカブカと煙草を吸うのはいかがなものか。

「ああ…。おまえ、ちょっと煙草買ってこい」
「は!?」
「赤マルソフト。間違えるんじゃねぇぞ」
「なんでわたしが!」
「俺はこの世界も地理もわからん。ましてや金もない。これが使えるとは思えんしな」

ゴールドカードらしき物を出したかと思うと直ぐに仕舞いこむ。確かにこの人の世界の通貨が使えるとは思えない。でも、なんで煙草が共通しているんだ!ていうかなんでこの人に煙草を買ってあげなきゃいけないんだ!しかも威圧感のある言い方。匿ってもらっている身のくせに、なんて偉そうなんだ。何様だ。

「俺様」
「あ」
「声に出てんだよ馬鹿野郎が。そんなに死にてぇか」

額に銃口を当てられる。すみません死にたくないです。

「…ちっ。金貸せ」
「え」
「使いもろくに出来ん女のようだからな。俺が行った方が早ぇ」

カチーン!
この男はわたしを怒らせた。外に出ようと玄関に向かう男の着物の裾を踏みつける。男は盛大に転んだ。ざまあみろ!なにかを言われる前に逃げるようにわたしは急いで靴を履く。

「怪我人は黙って家にいなさい!」

おっかない顔を見る前に家を出た。ついでに買い物してこよう。同居人が出来たおかげで食費もかかる。買い物をしながらわたしは思った。わたしだけの稼ぎで今後やっていけるのだろうか。不安だ。早くあの男いなくなんないかな。
買い物を終わらせ帰路につく。帰ったらいなくなっている、なんてないかな。ちょっとドキドキしながら玄関を開ける。シーン、と静まり返る廊下。寝室に入ると、あの男はいなかった。もしかして、もしかする?

「やっ…」
「遅ぇ」
「……」
「露骨に嫌な顔しやがって」

もしかしていませんでした。

「煙草一つでどれだけ掛かってるんだ鈍間」
「んな!言っとくけどわたしは買い物しに行っただけだから!煙草はついでよ、ついで!」

煙草を投げつけると、片手で受け取る。

「ふん。少しは使えるようだな」
「あのね…」

感謝の言葉一つないのか。心底腹の立つ男だ。
文句でも言ってやろうと意気込む。が、すれ違いざまに頭に手を置かれ不発に終わった。

「少し寝る。飯になったら起こせ」
「あ…はい」

そう言うとベッドに横になる。わたしは寝室を出ると、さっき置かれた所に手を伸ばす。冷たいような、暖かいような。そんな手だった。あれはなんだったのだろう。彼なりの感謝だろうか。こんなことで喜んでいる自分がいる。ちょっと気分がいいので、ハンバーグでも作ろうかな。リビングに入ると目の前にはビールの空き缶の山、山、山。目を疑う光景だった。わたしの一日の楽しみのビールが全て飲まれていた。犯人はあの男しかいない。
前言撤回。今日の夕飯はお茶漬けにする。あの男だけ!





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