暗闇に散る満天の星。この空を故郷の皆も見てるかな、なんて柄にもないことを考えながら、この海の地平線を眺めていた。今日は不寝番である。月に照らされたサニー号は錨を下ろしこのまま海のど真ん中に停泊。雲は止めどなく流れる。そして朝が来るのだ。
大きめの毛布にくるまり、温かいココアの飲みながらなまえは海を見つめる。満天の空は綺麗だが、闇の海は恐怖感を擽る。なにもなく無事朝を迎えますように。なまえはそればかり願う。静かな闇に一人きり。物音一つでビクビクしてしまう自分が情けない。しっかりしなければ、なまえは己の両頬をペチペチと叩く。よし!と気合いを入れた矢先、ガタン!と物音が近くでした。
「イヤァァァァ」
「よーっと!」
「…ルフィ?」
ゴムゴムで飛んできたと思われるルフィ。伸びた反動で真上にいる。いつもより高く飛んでいます。落下地点は当然なまえである。ちょっと待って!なまえの叫びは虚しく響くだけで。ドーン、と勢いよくなまえへと落下したのだった。衝撃でココアが溢れた。
「ちょっとルフィ…なんでわたしの所に落ちてくるのかな?アホなのかな?」
「そこになまえがいるからだ!」
「え、わたしのせい?」
「なまえはムニムニしてるからな。なまえに落ちても柔けェのかなって」
「なにそれちょっと聞き捨てならないんだけど」
わたし太ってないもん!と言い返そうとしたが言葉が詰まる。ナミやロビンのようにないすばでぃではないが彼女らが異常なだけで自分は標準だ、そう己に言い聞かせる。が、つい腹に伸びてしまう手。プニプニ。言葉にならない。そんななまえをよそに、ルフィは平然と海を眺めていた。
「へーっくしょい!う〜、寒ィ!冬島近いのかな?」
「冬島じゃなくても夜は冷えるからね。それにルフィの格好は見てて寒い」
「そうかァ?」
「こっちに来る?」
くるまっていた毛布を開け隣に来るよう促す。ルフィは何かを閃いたようで、ニヘっと笑うとなまえから毛布を奪う。それを被るとルフィはなまえを軽く持ち上げ自分の前に座らせる。そして後ろからぎゅっと抱きしめる。大きめの毛布な為、二人でくるまるのには十分余裕があった。
「こうやった方が暖けェ。ぬくぬくする」
「もう、ルフィってば」
口ではそう言うが、内心悪くないなまえだった。
「そういえばルフィ。なにか用があった?なにしに来たの?」
「なにしにってオメエ汗くせェな!なまえが見張りって聞いたから来たんだ!」
「それを言うなら水くさいでしょ。わたしと居たかったの?」
「おう!あいつらも寝てるし、“ふたりっきり”だもんな!」
「へぇ…そっかあ」
ルフィの二人でいたいという気持ちが聞けてニヤニヤが止まらないなまえ。そんなルフィが可愛く感じてしまう。ニヤニヤと怪しく笑っている背後でルフィはぎゅっとなまえを抱きしめたり、肌を突っついたり。
「ん〜やっぱりムニムニして柔らかい。水水肉みてェだなー気持ちいーなー」
「それ褒めてんの?貶してんの?」
「えーなんで怒るんだよ?おれ柔らけェの好きだぞ。でもおれゴムなのに硬ェし」
「ルフィはゴムの前に男の子だもの。ゴツゴツしてて当然よ。男!て感じがしてわたしは好きだな」
抱きしめている腕を愛しそうに撫でる。細いけど筋肉がついていて男らしい腕。この腕で我が海賊船の上に立ち、強者達を討ち取って行った。時には敵をぶっ飛ばし、時にはこうして不器用ながらも優しく抱擁する。なまえはルフィの手を取ると自分の頬へ重ねる。この傷だらけの手が好きだ。
「ルフィ。暖かいね」
「ああ。暖けェ」
その内ルフィの寝息が後ろから聞こえ始める。規則正しい呼吸が背中を伝って来る。
「おやすみ、ルフィ」
なまえは軽く毛布を整えると、再び暗闇の海へ目を移した。雲が流れる。月はまだ船を照らしている。朝はまだ来ない。
峙つ